プロローグ

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カツカツと黒板にチョークの先が 勢いよくあたる音、 そして、6月の、少し湿り気があり、じめじめした嫌な空気が教室を満たしている。 体の奥底から溢れてくる汗がとどまることを知らず、どんどん教室の湿度を上げていく。 自分から出る汗で蒸しかえりそうなほどに。 「えー、y=ax、えー、この公式を使えば1-3の問題は簡単に解けます。」 ここは、私立明青中学校 県内では中の上くらいの 大したことのない進学校で、 "誰でも通いやすく"がモットーのこの学校は、学費が良心的だが、設備投資費がないに等しく、 勿論、空調など存在しない。 そんな、初夏から既にサウナのような2年C組の教室に、 蝉がジリジリと鳴き、追い討ちをかける。 俺は、鳴宮來人。 チョークの音と先生の低音が奏でる交響曲をBGMに、 黒板を写しながら、別のノートに 二次曲線のグラフを書く練習をしている。これは、高校の数Cでやる範囲だ。 ちなみに 前の黒板では二次関数の説明をしているが、 これは俺が中学生になる前に終わらせた範囲で 簡単過ぎて聞く気にもならない。 前の時間が体育だったということもあり、俺以外のやつらは何人かを除いて、ほとんど虚ろな目をしていた。 「じゃあ、この問題!んー」 七三分けのシックな髪型、黒淵眼鏡をかけ、ベージュのベストを着た、 原田先生が周囲を見渡した 。
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