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波音。
磯の香。
強い潮風。
「・・・畜生。」
伊吹と真理阿は、浜辺に並んで座っていた。
「・・・あの野郎・・・俺がぶっ殺す前に・・・勝手に死にやがって・・・!」
「・・・伊吹・・・」
「・・・」
「・・・」
ザザー・・・ン
ザザー・・・ン
「・・・ねぇ。伊吹。」
「・・・ん?」
「・・・私・・・思ったの。」
「・・・何を?」
「人間ってさ・・・DNAのプログラムに逆らわず生きていた、んだよね・・・」
「・・・それが?」
「・・・だから・・・プログラム上の、人類滅亡ウィルスに感染した人間は・・・その死に・・・逆らえなかったのかな、って・・・」
「・・・」
「・・・私達が生き残ったのは・・・プログラムに・・・自分の意志で・・・流されずに生きた・・・からじゃないかな、って・・・」
ヒュルル・・・
ビュルル・・・
「・・・どうなのか、な。」
「・・・どうなんだろう、ね。」
「・・・」
「・・・」
「・・・へへ・・・」
「・・・ふふ・・・」
「ははははははははっ!」
「ふふふふふふふふっ!」
ザザー・・・
ビュルル・・・
「何にしても・・・さ。」
「・・・ん。」
「俺達・・・生きてる。」
「・・・うん。」
「これから、二人で・・・」
「・・・ううん。」
「・・・ん?」
「・・・来年の・・・春、かな。」
「・・・何が?」
「・・・3人に・・・なるよ。」
「・・・は?」
「・・・」
意味が解らず、首を傾げる伊吹。
少しはにかんで、俯いた真理阿。
「・・・」
やがて、愛しげに自らの下腹を撫でる真理阿に
「・・・!」
やっと、伊吹は、その意味を理解した。
「・・・そう・・・か・・・」
見上げた空は、どこまでも碧い。
視線の先に、つがいの海鳥が飛んで行く。
伊吹は誰かに名を呼ばれたような気がして。
それに、微笑みで応えた。
頬に伝う、涙をそのままに。
「・・・なぁ。真理阿。」
「・・・何?」
「・・・名前、何にしようか。」
「・・・そうだなぁ・・・」
遠くに、風が翻弄する、紙切れが舞っている。
沈み行く太陽が、二人の笑顔を照らしていた。
[完]
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