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駆ける。
風を纏ったかのように疾駆する。
不規則に繁る藪や樹木の隙間を、まるでそこに規則正しい道があるかのごとく縫い進む。
真っ黒な外套に身を包んでいても、小柄で華奢な身体である事は隠し切れない。
首の辺りから鎖骨にかけて、銀色の髪が覗く。
「『主』、近いぞ」
黒衣を翻す少女の傍から、低く深みのある声がする。
道なき道を素早く駆け抜ける少女にぴたりと添うように地面を駆る獣の体毛は、雪原のような白。
少女は、僅かに頷いてみせた。
同時に、黒の手袋を着用した手で、腰に携えていた剣の柄を握った。
「ねえ、コロ」
「何だ?」
「……乗せて!」
「自分で走れ!!」
コロと呼ばれた獣が、短く吠えた。
少女は、下唇を小さく突き出して不満そうな顔を作ってみせる。
「さあ急がれよ。あれが今夜の飯の種であれば尚更!」
「……うん、がんばる。がんばって狩る」
ひとりと一匹の視界には、脱兎のごとく駆ける影が次第に大きく映るのが手に取るように分かる。
少女は、鞘から剣を抜き、目の前の枝を刈った。
間も無く追い付く。
少女たちが追うその背中は、この世に存在する生き物とはかけ離れたものだった。
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