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それは、『異形』としか形容できない生き物だった。
人間に限りなく近い形を成しているが、限りなく遠い。
その身体に下半身は無く、足の代わりに六本の腕が不規則に地面を掻き分けて這い進む。
その背中からは、三本の足が生えていた。
「『這うもの』め、逃がさんぞ」
コロの目付きが鋭くなる。
牙を剥き出し、末脚に力を入れる。
『這うもの』と呼ばれた異形は、首筋にある複数の小さな目玉をぎょろぎょろと忙しなく動かして、背後に迫る二つの姿を認めた。
「ギャギャギャ! こいつら、しつこい!」
脳天が大きく開かれる。
そこには、鋭い牙が幾つも生え、二叉に分かれた長い舌があった。
いつもならば、その裂けた口で人間を喰らう。
しかし、『這うもの』はそれを諦め、迷わず逃走を選択した。
理由は、背後に迫る少女の存在である。
「コロ、はさみうち」
外套の陰から、大きめな瞳が覗く。
それは普通の人間とは違い、瞳に表情が無かった。
「任されよ」
『白狼』の脚をもってすれば、回り込む事など造作もない。
コロが末脚に更なる力を込めようとしたその時、すぐ傍から特殊な力の波動を感じた。
「『使用者・ルル』の名に於いて『霊剣リディル』を解放。同時に、右腕の特殊制御を限定的に解除」
「──まさか!」
コロが視線を真横に向けた瞬間、少女──ルル──の右腕の肘より少し上の部分が切り離され、勢いよく射出された。
放たれた腕には細いワイヤーが備えられている。
凄まじい勢いで分離した腕は、『這うもの』を越えて一本の太い枝を掴んだ。
「お先に」
「お前が行くのかよ!」
自分が行くものだと思っていたコロは、ツッコむ事を堪える事が出来なかった。
まだ短い付き合いだが、コロはルルの言葉足らずな部分をどうにかしなくては、と本気で考え始めていた。
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