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『皆、オンリーワン、一番じゃなくてもいい』
(──そんなの、嘘)
カズミが溜息をついた。
瞬間、再び、夜風に薄野原が靡いた。
「……橘さん?」
風に推されるように振り返ったゼンジが、身を屈めたまま、カズミを見上げていた。
ゼンジの琥珀色をした瞳の色と、腕の中の小狐の瞳の色が、月明かりの下で琥珀色に透けている。
カズミは、思わず小狐に手を差し伸べて、僅かに歩み寄る。
(おいで、こっちにおいで)
そのカズミの願いに反して、小狐は、ゼンジの腕を蹴って、薄野原にあっという間に消えてしまう。
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