第百九章 副司令官の役目

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 性格を鑑みて現場の雰囲気を想像してみた。きっと仕事は規則通りに処理されているだろう。何か不測の事態が差し込まれたとき、初めて不協和音を発するはずだ。 「その大佐ですが、昨今頻繁にM23の残党と連絡を取り合っているとのこと」  情報の元はトゥヴェー特務曹長だと添えた。不確かな内容ではないだろうし、含むところがあるわけでもなさそうだ。  ――残党が一方的に接近している可能性もあるだろう。その目的はなんだ。今更大佐に戻れと言うわけでは無かろう。  発想を逆転させる、大佐が報告を求めていたらどうかと。 「ニャンザ警察補佐官を呼べ」 「ダコール」  即座に退室し手配を行う。自由裁量を得てからというもの、サルミエ大尉の動きが良くなった気がした。  さして時間が掛からずにニャンザ警視正は島の目の前にやってきた。 「ニャンザ警視正であります!」 「うむ。コンゴ東部付近に在ったM23を知っているか」  知らないはずがない、思考の猶予を与える意味で先に触れておく。 「はい、閣下」 「現在の状況を報告しろ」  大雑把に求めた。何の準備期間もない、完全にニャンザ警視正の記憶に頼った。 「ルバンガ将軍が再度勢力を招集、後援を得てゴマ周辺に武装拠点を保持しております」  曖昧な報告ではなく、確たる情報を吐き出してきた。島は目を細める、なぜ咄嗟にそこまで言えたか、更に踏みこむ。 「後援先は」 「はっ、ンタカンダ大将と噂されています。証拠はありませんが、二人が接触したと言われております」  火のないところに煙は立たない。だからと噂で判断を下すわけには行かない。その部分を保留し別の質問をしてみる。 「将軍の目的はなんだろうか」 「それは当該地域を実効支配している、ンクンダ将軍の追放でしょう」  はっきりと言い切った。それについては島も同意見、それどころか当事者ですらあった。 「方法はどうだ」  凡そ警察補佐官には荷が重い質問だ。守備範囲を逸れていることなど解っていて言っている。 「当然、武力行為による強行排除です」 「戦力は」 「地上軍兵による押し出し。武装はルワンダ国内よりの調達が濃厚です」  矢継ぎ早に言葉をぶつけたにしては響きが良い。  ――瀬踏みだ。もしこいつが使えるようなら、警視正から引き上げるよう工作しよう。  サルミエ大尉が事前に準備させることが出来た時間はない。ならば地力がどこにあるかの目安にもなる。 「兵力は」 「基幹となるのは退役軍人の類です。数は徴兵でいくらでも賄えます。何せここはアフリカですので」 「徴兵だと?」  無理矢理に兵士に仕立て上げてどこまで戦えるか。しかし二級民兵でも国連軍を圧倒出来た事実もある。薄々は気づいていても島は自身の口からは言いたくなかった。 「少年兵の徴兵です。アムネスティ・インターナショナルの告発によると、ゴマ東、ルワンダ西で多数の動員があったとみるのが正しいでしょう」  ヒューマンライツウォッチと同類の人権団体だ、そこが世界に告発した事実が残っている。それによればルバンガ将軍だけでなく、ンタカンダ大将も同じく逮捕要求が出されていた。    ――他人のことばかりは言えんが、派手にやっているのは確かだろうな。  サルミエ大尉がノートパソコンを利用して、告発に関する文書を拾い集めている。逮捕者はハーグへと護送し、そこで国際裁判を受けさせるべきだと締めくくられていた。 「警察補佐官はどう考える、その地区について」 「アフリカ修正を加えます。それを踏まえてですが、コンゴについては当該政府が、ルワンダ国内については軍や警察が正すべきです」  現実は極めて困難だと予測します。諦めていることまで確りと口にした。  ――こいつは使えそうだ。少し功績を積ませよう。  島は目を瞑り口を閉ざす。その間、二人ともその場で起立したまま黙っている。  ――いきなり軍兵を投入するわけにはいかん。ンタカンダ大将はどうやって根拠を得ているか、そしてカガメ大統領がどうしてそれを黙認するかを把握せんとならんな。  物事には理由がある。だからと解決策が必ずあるとは限らないのが不公平だ。 「ニャンザ警視正、極秘の調査に動員可能な者を握っているか」 「恥ずかしながら、居るのは五名のみ。それ以上は保証を与えなければ従事させられません」  しくじれば家族を路頭に迷わせる、そんな任務を命じるには代償が必要だと応じた。 「保証の内容を示せ」  任務の詳細など説明しない。今までの会話で推察出来ないような人物ではないとすでに知っていたからだ。 「二十万米ドル。それだけあれば五十人規模で活動可能です」 「サルミエ大尉」 「ウィ」  彼は副官のデスクからキャッシュカードを一枚取り出し島へ渡した。一瞥してそれをニャンザ警視正の眼前へ差し出す。 「ニャンザ警察補佐官へ命じる。ンタカンダ大将の身辺を探れ。捜査員の家族が心配なら、ことが終わるまでフォートスターへ移住させるんだ。特別区に居住場所を与える」 「了解です、閣下」  敬礼するとじっと島の瞳を覗き込んだ。それが何かのサインだと気づく、気づける位の経験を島も積んできた。 「質問を認める」 「閣下はルワンダをどのようにお導きになるおつもりでしょう?」  それはあまりに重い言葉だった。目の前に居るのは金で雇われた傭兵の警察官でしかないはずなのにだ。 「俺は至って当たり前のことを夢見てきた。努力が愚直に認められ、信用が裏切られない、ただそんなことを。未だに世界のどこにも見当たらない、だから俺がルワンダの隅っこに豆粒のような居場所を作ろうと思っている。それだけだよ」  島は期待しているような答えでなくて済まない、先にあっさりと姿勢を崩してしまう。 「世界の悪意は、あなたの意志を認める程優しくはないでしょう。ですが、そのご意志の無駄遣いはさせません」  ニャンザ警視正は再度敬礼すると執務室を後にする。その背中を島はじっと見つめていた。  ――俺はやりたいことが解らず、焦燥を抱えていただけかも知れん。だがようやく何かが少し見えてきたような気がする。 ◇  ホテルの仮司令部に来訪者があった。ロマノフスキー大佐も、マリー中佐も不在というので島のところへやってきたらしい。 「イギリスよりただ今戻りました」 「おうヌル、遠出してたらしいな」  一人の青年を伴っている。体格は中肉中背、軍人にしては少し背が低いのかもしれない。 「司令に命令を受けていたのですが、あちらも出張中だとかで。紹介致します、リンゼイ退役少尉です」  一歩前に出て敬礼する。島が少将であると事前に聞いている。 「元ロイヤルスコッツ複合連隊大隊砲兵将校のリンゼイ退役少尉です。サンドハーストでのヌル中尉の後輩にあたります」 「ルワンダ客員司令官のイーリヤ少将だ。そうか、砲兵将校か」  ――マリーの考えがわかったよ。  ヌル中尉一人しか砲兵将校が居ないのは困りものだった。かといってどこから引っ張って来るか、ヌル中尉との相性もある。それなら自分で連れて来いというわけだ。  喋り方は丁寧で、やはりイギリスで学んだだけあるなと感じる。所作もどこか柔らかい。 「ヌル中尉殿の考えに賛同致しましたので、宜しければ自分も従事させて頂きたく思います」  チラッとヌル中尉に視線を送る、彼は穏やかに笑みを浮かべていた。 「俺は国際的な指名手配犯だ。貴官が何を聞いたかを尋ねはしない」  ヌル中尉が誠実に話をしたと信じて、繰り返すことをしなかった。リンゼイ少尉も、その態度を受け入れる。 「世界から隔離された地の果て、それも言葉も通じずに行為が報われる保証など何一つない。それでもか」 「ヌル中尉は仰有いました。イーリヤ閣下が必ず認めて下さると」  胸を張って、それでもです、と返答する。  ――俺なんぞのために、どいつもこいつも……。  世界に理想郷は無かった。ところが世界には良心がたくさんあると知る。 「リンゼイ少尉の現役復帰を命じる。配属先はクァトロ戦闘団、司令はマリー中佐。直属の上官は砲兵隊長ヌル中尉だ」 「サー、イエス、サー」  表情を緩めて近々の行動について触れる。 「早速だが二人はフォートスターに行ってもらう。あちらでブッフバルトが人手不足に悩んでいるはずだ」 「イエス マイロード。可及的速やかに赴任いたします」  彼はそう口にすると、揃って敬礼し部屋を後にした。 ◇  数時間の後にフォートスターから着任報告があったと、翌朝にサルミエ大尉から聞かされる。  ――可及的速やかに、か。グロックは元気にしているもんかね。  引っかけ問題に何度やられたか、今となってはよい教訓に思える。 「ボス、面会申請が御座います」 「誰が来たんだ」  報告に来たのでなければ客だろう。さもなくば関係者を装ったスパイの類い。 「ケニアからワイナイナ中尉と名乗る者が」 「サイトティ大臣のとこの若いやつか。確認してから後に会うとしよう」  約束したことだ、きっちりとやることをやってから受け入れてやろうと指示する。 「ダコール。もう一人、ド=ラ=クロワ大佐がおみえですが」 「すぐに通せ」 「畏まりました」  部下ではない。客かと言われると曖昧だったが、信頼する人物なのは間違いない。  姿勢を正して入室を待つ。 「ド=ラ=クロワ退役大佐であります」  眼前にやって来た彼は、どこか表情が悩ましい。理由の程が島には手に取るようにわかった。清廉過ぎるのだ、大佐は。 「ソマリアでの活動、よくやってくれた。今や安全海域の仲間入りだ」  そこに至るまでは様々困難があったはずだ。島は柵をすべて脇に避けて、行いを称賛した。 「閣下、ありがとうございます。先日はその……」 「俺は大佐の判断を尊重する。貴官は秩序を守護し、立派に任務を終えた。一片の疑いもない」  口にしづらそうだった彼の言葉を最後まで聞かず、行為の全てを、彼の正義を認めた。  ド=ラ=クロワ大佐は、ロマノフスキー大佐が言っていた言葉を噛み締める。 「R4社はこの度会社組織を解散致しました。船舶並びに船員の殆どが、フィリピン三日月島に向かっております」 「うむ」  ロマノフスキー大佐からは概要報告だけが届けられている。  その書類には、司令官は未定、ただし極めて有望な者在り。近くキガリに来訪する見込み、と書かれていた。 「勝手な申し出でありますが、今一度閣下の元で働かせていただけないでしょうか。自分は為すべき何かを見付けた心境なのです」 「実は船団司令官が不在で困っていたんだ。最適な人物からの申し出を、喜んで受けさせてもらうよ」  既定のことがらだったかのような態度、ド=ラ=クロワ大佐は心が締め付けられた。 「お心遣い有り難く。今後は、何があろうと閣下のお力になれるよう、微力を尽くさせていただきます」  フランスはド=ラ=クロワ大佐の忠誠に応えてはくれなかった。だからと恨みも不満もありはしない。  そんな彼でも、自身を求めてくれる相手に尽くしたいと感じた。  さして長くはない残りの人生ではあるが、全てを捧げたいと心から思ったのだ。 「若輩者をこれからも支えて貰いたい。頼めるかな」 「はい、閣下。はい……必ず」  ド=ラ=クロワ大佐の中で何かが満たされる。初めて少尉で任官したときの興奮に似ていた、数十年前を不意に思い起こしてしまう。 「ルワンダも人手不足だがフィリピンもだ。三日月島の陸兵、一緒に面倒を見てやって欲しい。運営全般を任せる、大佐の好きにしてくれ。全責任はこの俺にある、覚えておくんだ」  ――思い詰めるタイプだからな。それに、責任が俺にあるのは事実だ。  信頼を真っ正面から示され、すぐには言葉に出来なかった。 「慎んで拝命致します。ご期待に沿えるよう、全力で任にあたらせていただきます」  後ろ姿。来たときとは違い、足取りに力強さが伴っていた。 ◇  ワイナイナ中尉とは後日顔を合わせた。これといった感想を持てなかったのは前後の背景がド=ラ=クロワ大佐と違ったからどうか。 「ボス、ニャンザ警視正です」 「通せ」  極秘調査を命じてから数日、まずは第一報をといったところだろう。 「閣下、ニャンザ警視正であります!」  やけに気合が入っている気がした。やる気を出してくれたこと自体は嬉しいが、まだ人物が解っていない、勇み足にならねば良いがと留意する。 「どうだ」 「ルバンガ将軍への武器の密輸、ンタカンダ大将が出本で間違いありません」  断言するには証拠が必要だ。それを提出してきた。 「運搬の命令書か。確かにルワンダ軍の正式なものだな」  ――ということは正規軍の行動になる。大将は正規軍への命令権限を持っていない、連座する人物が出てくるわけだ。  島とンタカンダ大将の最大の相違は、国軍司令官か否かだ。ルワンダ政府が認めているかいないか、それは大きい。  書類には西部軍管区の機関署名がなされている。責任者は管区の司令官ということになる。 「ルワンダ軍情報部、J2からの情報です。事実を軍が認めております。もっとも間違いだったと言われる可能性も否定は出来ませんが」  注意喚起をしてくる。間違いだった、なるほどそういう逃げ道もあったかと島は頷く。 「運搬内容のリストは紐付けされていた?」 「それが内容は不明、リストが紛失ということに。恐らく各地の軍で破棄処分扱いになったものを集めたのでしょう」  やけに具体的な見解を上げてくる。島はじっとニャンザを見つめた。  ――こいつは何を知っている? 解せん態度だが、こちらの有利になることは違いない。どこからか力が働いている?  何を考えているか感づかれる前に一言。 「サルミエ大尉、破棄処分リストの確認を行え。ブニェニェジ少将のところに名義を借りられるようするんだ」 「ダコール」  軍の記録だ、警視正では難しい。警察記録を洗わせようと欲しい部分を整理する。 「ニャンザ警察補佐官、警察への通報、相談記録でンタカンダ大将、並びに側近らに対するものを収集だ。保管は大統領府の補佐官名義を使う。開示の要求があった場合、政府の所管だと突っぱねろ」 「はっ、そのように致します」  もし外力が働いているとしたら、どこの誰が彼に影響を与えているのか。  ――ンタカンダ大将側の人間だとしたら俺はすでに敗北しているな。ブニェニェジ少将が集めた人員だ、俺と関連付けるのは可能か。  情報戦は得意ではない。だが島は切り札を持っている、真実を確かめる裏技を。 「もう一つ、国軍全体で民に不義を働いているとの物があれば訴えを集めろ」 「といいますと?」 「ルワンダに害をなす奴らは俺の敵ということだ。例えそれが肩を並べて歩いたことがある者でも」  警察活動権限がどこまで及ぶか、それは当の島も解ってはいない。 「承知致しました」  退室する警視正。エーン中佐が眼前にやって来る。 「なんだ」 「閣下、自分の監査権限ですが、傭兵の警察部隊にも適用されるのでしょうか」  敢えてそのように言葉にした。島が疑うような言動を慎んでいる、それを見て取ったからに違いない。 「俺に起因する全てに適用させる」 「ヤ」  それだけでいつものように壁際に戻り口を閉ざす。 「サルミエ大尉、国家警察長官と面会の手続きを取れ」 「ウィ モン・ジェネラル」 ◇  警察庁舎に島が足を運ぶ。本来ならば逆が正しい席次なのだが、警察活動権限者として従の立場を認めると。 「ボス、ブニェニェジ少将からです。J2よりンタカンダ大将を探る何者かが居ると注意がありました」 「ほう、そうか」  ――あの少将が嘘か誠か警告を口にしたわけだ。これが本心ならば奴は固定の味方になりうる。  庁舎の廊下で急遽足を止める。サルミエ大尉は黙って周辺警戒に切り替えた。  衛星携帯を手にして島がどこかに連絡する。 「よっ、俺だ」 「ボス!」 「頼みがある。大至急調べて欲しい。ブニェニェジ少将が、ンタカンダ大将の身辺調査をしているやつらの正体を知っているかどうかだ」 「誰かを探る必要は?」 「無い。出来るか」 「スィ! お任せくだせぃ!」  返答に満足するとまた歩きだす。サルミエ大尉は関心を持たない。  これが判明したら幾つかの基準が生まれる。それは戦略上重要な基準となるはずだ。  頻繁にサルミエ大尉の携帯がメールやら電話の着信を告げる。島まで上がってくるものは極めて少ない。  長官執務室へと入る、来庁を耳にしているガサナ長官が起立、敬礼で迎えた。 「閣下、ガサナ警察長官であります」  でっぷりとした腹、丸い眼鏡。オーラとしてはカガメ大統領とは全く違ったものを感じる。 「イーリヤ少将だ。大統領令により警察活動権限を付与されている」  根拠を明らかにする。サルミエ大尉が補佐官に書類のコピーを渡すと同時に、正規の署名入書類を提示した。  島がソファに座るのを確かめてから、長官も座った。随員は起立のままだ。 「反体制派の抑止と聞いておりますが」  そう表現すれば大抵は当てはまる。小言を口にはしない。 「俺はルワンダを安定させるのが役目だ。擁護してくれているカガメ大統領、不正な手段で彼を乱す者は決して許さん」  長官が気圧されてしまう。法を守護する立場であっても、常に清廉潔白だと言い続けられない何かがあるのは避けられない。 「じ、自分もそう考えます。公僕たるものはすべからくそうでしょう」  島自身が法の網を外れた場所に居るのを棚にあげ、それについては触れない。対抗しても互いに良い結果になどならないからだ。 「一般犯罪の検挙率がどうと、とやかくは言わん。俺が求めるのは国家の根幹に関わる事案の阻止にある」  公安警察の考えだ。全てを切り離して、というのは難しい。だからと無選別ではあまりに情報が氾濫してしまう。 「どうぞ警察をお使いください。自分からも協力するように通知を出させていただきます」 「ニャンザ警視正が俺の警察補佐官だ。彼の名前を添えて欲しい」 「はい、閣下」  流れに逆らうのは馬鹿のやることだ。ルワンダで大統領の意思に乗るのと反るのと、どちらが利になるかなどはっきりしている。突然のことで動揺しているのが見て取れた。島はやることを終えると表情を緩める、仕事は終わりだ。 「ところで長官、退官した歴年の警察官に知人は居るかな」 「はい、幾人も御座いますが」  全く意図がわからない、それでも事実沢山知っていたので答える。 「中に働く意思がある者が居たら紹介して欲しい」 「はい、幾人でも。ですが体力的にもう満足に勤務は出来ませんが」  アフリカ人の老いは極めて早い。四十代で既にそんな状態に! 初めて接した時に驚いたとの話は良く聞く。 「指導的な立場だよ。素人に警らの手順を教えたり、知識を教授する人物だ」  フォートスターの民間警備団体、そこの教官を求めていると補足した。 「そういうことならば是非! 彼等は豊富な警察知識を有しております。きっとルワンダの為と喜んで働くでしょう」  家でタバコを吸い、酒を飲んで朽ち果てて行くだけ。社会からは最早求められず、一家の荷物になっていて気落ちも激しい。  いくら失業率が低いと言われているルワンダであっても、十パーセントを軽く超えてしまう。 「そうか、頼む。サルミエ大尉、整理してブッフバルト少佐に引き継げ」 「アンダスタンディン」  民兵の司令はマリー中佐だが、警備団体は都市機能に含まれている。その責任者はブッフバルト少佐だ。  指導されることで治安が高くなるわけではないのを島は理解している。単純に何かやることがあるうちは、余計な考えを起こさなくなるからだ。  遥か昔、コートジボワールで軍曹をしていた時代を思い出してしまう。  ――兵も民も一緒だ。暇があるから変なことをしでかす。動かし続ければ水も淀みはしないからな。
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