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第百十章 星を取り巻く光たち
ウガンダ北部、アチョリ氏族の活動は目に見えて減っていた。それが力を蓄える為なのか、はたまた衰えたせいかは解らない。
「司令、我等はいつまでこの地に駐屯する予定でしょうか」
「何故だ」
マリー中佐は書類に埋もれながらビダ先任上級曹長の問いに反応する。
昔の彼なら余計な口をきいてしまったことに、すぐに後悔する羽目になったが。
「兵の恒久的住居に、防御施設の拡張。交代要員の手当など、中長期的な視野からです」
質問が多い軍人は嫌われる、だが適切な疑問は歓迎された。
「実のところ俺にもわからん。目的の一端は果たしたが、終わりとは言えんからな」
素直に吐露する。終了を上申したら受理されるだろう見込みだ。
問題は再度軍を動かすのと、このまま残すのとどちらが良いかが現時点で判断出来ないことにある。
「衛生面は徹底させます。疲労は蓄積されるでしょう。無駄を承知で宿舎は建築させ、後に地元に引き渡すのは?」
大は小を兼ねるパターンだ。費用がはみ出ることに関しては、物価が低い地域なので重要性は薄い。
「そうしてくれ」
本来ならばマリー自身が先に指示すべき内容。無理でも下士官ではなく、将校が進言して貰いたいところだ。
「住民の視線が冷ややかです、政治的な問題は範疇外ですが」
懐柔のしようがなければ、それは力でねじ伏せるしかない。解決にはならないが、甘く見られて被害が出てからでは遅くなる。
「政権への軋轢があるからな。だからと独立したところですぐに崩壊するだろう」
さしたる産業もなく、内陸で資源も不明。世界で孤立するよりは、ウガンダという国の枠に収まっている方が良い。
部外者の意見なのは解っている。当事者からしてみれば、圧政に苦しめられるよりは餓えた方がましだということも。
「そこか……」
何が自分に出来る最善策か、真剣に考える。及ぼせる範囲は広い、だがそこに首を突っ込んでよいかはまた別の話だ。
IDP、難民キャンプ。ウガンダ国内で避難生活を余儀なくされているアチョリ族の多くが、キトグムに存在していた。
「ルウィゲマ中佐を呼べ」
「ヴァヤ」
思案を形にするつもりだろう、ビダは速足で彼の幕へと向かう。
「どうしましたマリー司令」
階級は同じでも態度は遜る、軍に同格はない。中佐でもマリーは司令で上官なのだ。
「アチョリ地方の保護村、未だに機能している場所と規模はわかるか」
政府の肝いりで設置された、対神の抵抗軍拠点。ここに避難民を囲い、略奪や暴行から保護するのが目的だ。
一か所目の立ち上げからもう二桁の年月が過ぎているが、未だにここで暮らす数は増え続けている。
「すぐに調べます。中央政府の管轄ですが、問題ありません」
専属護衛軍が配備されている、それなのに簡単に神の抵抗軍の侵入を許してしまっている過去があった。守るのは難しい、何せ攻め手はどこかに兵力を集中し、一瞬を衝けば良いのだから。
「AMCO派遣軍として保護村の警備にあたるぞ」
任務を司令官の拘束という攻勢から、防衛に切り替える方針を明らかにする。成果のほどが解りづらく、功績にはなりづらいのが守りの特徴だ。
「恐らく十数か所を超えるでしょう。全てを守るのは困難ですが」
国連の平和維持軍が警備を担当している部分も十か所前後。その総兵力は千を下回る。
「全てを保護するつもりはない。まずは情報を集めるんだ」
「イエス、コマンダー」
ルウィゲマ中佐は命令に従う。ビダ先任上級曹長はやり取りからヒントを得て進言する。
「横やりは常に懸念されます」
「そうだな。ボスにお伺いを立てるとしよう」
実は迷っていた、準備が整ってから尋ねるべきかと。だが順不動である島との連絡を優先する。ビダが去り部屋には誰もいない、気をきかせて退室したのだ。
「ボス、マリー中佐です」
直通回線、気軽に使えと言われてはいるが中々そうも出来ない。
「何か思いつきでもしたか」
何でも言ってみろ、声色から察したのか切り出しやすい雰囲気を作ってくれた。
「はい。キトグム――ウガンダ北部の混乱地域にある保護村、その一部をAMCOで警備しようかと思いまして」
「確かPKOやウガンダ軍の護衛があったな」
「そこへ割り込みます。一番守りが厚くなり、余剰兵力は各村へ押し出される見込みです」
「ふむ、そして」
ただ兵力を投入するだけなはずがない。島は期待を持ちつつも厳しい査定で臨むつもりだ。
「保護村の生活は最低限を下回っています。インフラの整備がしやすい場所を見極め、そこを要塞化し規模を拡大。安全圏を構築し、集約を図ります」
「簡単に出来ればもう誰かがやっていただろうな」
「国際人権団体、宗教、特別区の政治を背景に求めます」
「……それは何とか出来るだろうな」
「自分はベルギーで故郷の農村を防衛する手段を構築しました。ここでもそれが有効かは解りません。ですが家族が土地を遠く離れないのには理由が、感情があります。結束は可能と考えます」
マリー中佐が司令任務を放りだし、ベルギーの実家へ戻ったのは記憶に新しい。そこで地元民の結束意識を、防衛に昇華させ、政府の後援を得て制度化してきた。
その功績は認められる。問題はアフリカ、アチョリが同じように政府側の指導でそれを容れるかだった。
「ルクレール全権委員、並びにマグロウ氏、ムセベニ大統領に話は通しておく。転機が必要だがどうだ」
「神の抵抗軍に正面から喧嘩をふっかけます。AMCOでご迷惑というなら、キャトルエトワールで」
「――うむ、俺が認める。お前の思うようにやれ、外野の心配はせんで構わん」
「ウィ モン・ジェネラル!」
◇
その日のうちに、ドゥリー中尉とクァトロ戦闘団はアチョリ地方を巡回し、難民キャンプを目で見て確かめる。AMCOの軍旗と四つ星の軍旗を掲げ、堂々と国内を移動する。
途中襲撃を受けることもあったが、数名の軽傷者を出すだけで終わる。無論反撃で不逞の輩は全滅させた。
「四か所が適当な感じだな」
ルウィゲマ中佐の持ってきた資料を机に広げて検討する。ドゥリー中尉、そしてストーン少尉を司令室に呼び控えさせた。この段階ではトゥツァ少佐は呼んでいなかった、彼には統制を行う際に初めて触れさせ、意見を求めるつもりで。
「近隣ではありますが、道路も荒れていて相互支援というわけにもいきません」
そもそも道路整備がされたという話を聞かない。そこが通りやすいから歩いただけ、その程度の話だ。
「代表者の政治的志向はどうだ」
「一か所が不明ですが、恐らくは他と同じでは?」
聞き取り調査をした結果の報告書が添付されている。だがマリー中佐はその言を容れない。
「信用出来ない者を除くのではなく、信用出来る者を用いるんだ」
かつての戒めを己の糧とする。抗議はない。
「この三か所を利用する。うち二か所をAMCO直轄とし、ルウィゲマ中佐に預ける」
兵力も民兵団から五百ずつを割り振ると人物を指名した。そこにケニアやタンザニアなどの部隊も組み込まれる。従来の十倍規模の護衛だ、これならばまず攻めては来ないだろう。
「残るこの飛び地、生活条件は極めて劣悪、広さと伸びしろはありそうですが……」
最悪の地域、場所を移してしまったほうが良いのでは? そんな意見が出たとしても不思議はない。
「ここを計画の軸にするつもりさ。三か所の特別区への組み込み処理、中佐に任せる」
起草者としての功績を譲る、つまりはそういうことだ。失敗の可能性がある場所はマリー中佐が引き受けた。
「どうして危険な場所をわざわざ?」
文句はない、疑問はあっても。政府に話が通っているのも聞いている、何せ関係各所に顔が利くといっても過言ではないのだ、情報の流入は早い。
「最悪を乗り切れるならば、それで希望が産まれる。俺は困難を回避して進むことが許されない任を背負っているんだよ」
軽くほほ笑んだ。だが目は決して笑ってはいなかった。
「あなたがクァトロのマリーだと心底感じました。全力で支えさせていただきます」
「頼む、ルウィゲマ中佐」
目が届かない場所だけでなく、中長期的な案件になった場合の役割を彼は引き受けると言ってくれた。ウガンダ軍人としてその存在をかけて。
「ドゥリー中尉、保護村の防衛体制構築を指揮しろ」
「ヤ! コマンダン!」
物理的な防壁にシステムの類、人員をまとめるのはプレトリアス族が明るい。
「ストーン少尉、警戒範囲の策定だ。増援を得られる線を確保しろ」
「ダコール」
特別につけられている人材、トゥヴェー特務曹長。彼にも任務を割り振る。
「トゥヴェー特務曹長、保護村の避難民を政治誘導しろ。彼らにも自主防衛の精神を埋め込め」
「保護村の主体を女性とし、パテールを推薦させては?」
一つ進言してくる。パテールがリーダー、ここでいう村長を指すことを補足した。女性の保護を前面に打ち出し特色を持たせる。
「ルウィゲマ中佐、ウガンダという国からみてそれについてどう考える」
判断がつかないので助言を求めた。
「以前カジブウェ副大統領が居ました。彼女は十年もの間ウガンダの女性地位向上の為に尽力を。ムセベニ大統領も女性の待遇改善を推進しておられます」
政府の方針と合致していると太鼓判をおした。
「特務曹長の進言を採る。パテールの指名を保護村の女性らの互選で決めさせるんだ」
「ヤ」
その場を解散させ、トゥツァ少佐らを新たに呼び出す。方針を説明し意見を求める。これといった案は出ないが、執行は可能だろうとの見通しがなされる。
「トゥツァ少佐、各民兵団を指揮し保護村を防衛しろ」
「ダコール」
生活物資などの調達をハマダ中尉に一任し、マリー中佐は遊撃のポジションを占めた。保護村から離れた山地に拠点を置いて伏せる。
「あとはどうやって神の抵抗軍に喧嘩を売るかってところだな」
敢えてビダ先任上級曹長に聞こえるように呟く。
「あちこちに挑発のビラでも撒いたらどうですか。単純な手法の方が宣伝になります」
含み笑いを隠さずに、それに面白そうだからと理由を付け加える。
「そうだ、仕事は楽しくやらにゃならん」
ゴーサインを出し、一本釣りを楽しむという方針が確立された。
◇
「ボス、お待ちかねですぜ」
仮司令部に埃まみれのコロラド先任上級曹長がやってきた。相変わらずサルミエ大尉は良い顔をしない。
「最早か、流石だな」
あまりの素早さに驚いてしまう。今までに一度足りとて誤報を持ってきた試しがない。
「少将は知りませんぜ」
前置きも何もない。欲しい部分のみを切り取り簡潔に報告する。
「そうか」
――軸にして問題は無いわけか。ならば奴がルワンダの守護神になればいい。
目を瞑り先行きを見通そうとする。側近等は物音一つたてずに待つ。
――西部はニャンザに任せて情報収集が出来る。ウガンダはマリーがやるな。フォートスターは何とかブッフバルト達で維持してもらうとして、やはり首都だ。
トントントン、とデスクを人差し指で軽く叩く。考えをまとめている仕種だ。
――ロマノフスキーには自由にやってもらう。ド=ラ=クロワ大佐に、俺からの意思を伝える意味で誘導役が最初だけ必要か。すぐにクーデターを起こす要素は少ない。何かしらのサインは絶対に見えてくる。
ぱっと目を見開きコロラドに視線を向ける。
「コロラド、カガメ大統領に反抗する秘密勢力がある。会談をすると偽の情報を流した奴等だ。特定しろ」
「スィン。ボス、流した奴等と反抗勢力が別の可能性がありまさぁ」
「なに?」
考えなかった事態。指摘され、確かにそんな組み合わせもあると改める。
「命令を変更する。カガメ大統領に関する重大情報を集めろ、詳細は任せる」
「へっへっへっ、わかりやした」
島はポケットをごそごそとやりカードを取り出す。それをデスクに置いた。
「持っておけ」
「軍資金のカードならありますが?」
多少使いはしたが、まだまだ億円単位で残高があった。
「こいつは無制限だ。お前の判断で使え、預けておく」
無制限。口座にある全額を引き出せるカード、クレジット機能も当たり前についている。
「ボス……死ぬときには必ず破棄しまさぁ、ご安心を」
「俺に黙って勝手に死ぬな。これは最優先命令だ」
口許を吊り上げ、全幅の信頼を明らかにする。もし生まれ変わることがあるならば、コロラドはまた島の部下でありたい、そう強く願った。
「エーン中佐」
「ヤ」
片隅に居た彼を呼び寄せる。万能な駒を動かすのは切羽詰まった時のみ。
「フィリピン三日月島へ行き、ド=ラ=クロワ大佐の補佐を行え。お前の判断で帰投しろ」
「仰せのままに。お側にオルダ大尉をお使いください」
一族がウガンダに出撃している今、妥当な指名だと素直に受け入れる。
何を補佐してくるか、そんなことは尋ねない。
――即応能力が低下する、ならば代替行為で埋めるだけだ。
片隅に居場所を戻し、解散命令を待つ。その前にもう一つ。
「サルミエ大尉、モディ中佐に三日間の厳戒態勢をとらせろ」
「ウィ」
「解散だ」
執務室には島のみ。受話器を手にして首都防衛司令部に直接連絡を入れる。交換が大急ぎで司令官に繋いだ。
「ブニェニェジ少将です」
「イーリヤ少将だ。済まないが三日間だけ警戒を強く出来ないだろうか」
「それは構いませんが、何かしらの危険が?」
「反政府勢力の見極めと、警察の穴埋めで」
「J2も未確認です。市民に動揺が走らないよう、演習告知をしながら展開します」
騒がせると逆効果に繋がりかねない。適切な対応だ。
「警察には私から長官に直接伝える。現場での優先権確認を頼む」
「承知しました。それでは閣下、失礼致します」
あの日から島を閣下と呼ぶが、島は彼を同列の少将だとして接するので変な感じになってしまう。
――三日、それまでにロマノフスキーなら帰ってくるはずだ。
何の指標も無い中、直感で国軍の方針を定める。それも自身とは別の軍区に口出しをして。
面子にうるさい中国軍あたりならば、すぐに抗議の山が届くだろう行為だ。
「ああ、そう言えば松濤にも警備を置いたんだったな。ま、日本なら何も起きんか」
――父上、母上。孫の顔を見せるどころか、電話の一本すら出来ずに申し訳ありません。龍之介は決して後悔していない、それだけはいつか伝えたいと思っています。
家族が居るのに会うことも、無事を伝えることも出来ない。ロマノフスキーがどんな心境だったか、島も知ることになった。
冷蔵庫からビールを一缶。いつもと変わらないはずなのに、どこか苦いように感じられた。
◇
これは訓練だ。軍隊が市街地、それも首都の各所に出張り警戒をする。クーデターの常套手段だけに市民も不安を隠せない。
そこで島は独自の一手を打った。カガメ大統領にテレビやラジオを使って、演習命令を出したと報じさせたのだ。
「首都の治安強化を念頭に厳戒態勢の訓練を命じています。驚かれませんように、特に外国の報道関係の方々には配慮をお願いします」
放送したのはAFP通信と、ラジオミドルアフリカだ。ルワンダにおける外資企業だけに皮肉なものだ。
左胸に階級章を輝かせ、ニャンザ警視正がやって来る。
「閣下、報告にあがりました」
手を休めて彼を見る。視線で先を促した。
「ンタカンダ大将ですが、コンゴ軍司令官の際に国家の不正を証拠として握ったようです」
ニャンザ警視正の言葉を鵜呑みにするならば、カガメ大統領はコンゴへの発言力を高める意味で、ンタカンダ大将を囲っていると考えられる。
「現実に不正が無い国などないだろうな。それでいて効果的ときたら、余程の高官の悪さだな」
――ポニョ首相も鉱山を抱えていた、大統領も何かしらしているんだろ。
おおよその背景があれば、思考の向きも狭まってくる。
「ルバンガ将軍はゴマ周辺を押さえるのが目的で、ンタカンダ大将の安全確保が関連付けられます」
国境を跨いだ影響範囲があると、それだけで可能性は爆発的に広がる。
――ンタカンダ大将の策源は何だ? 兵力は暴力により供給可能だったが。
どう考えても外貨を多量に得る道筋が足らない。武器は軍に横流しをさせる、これは代価があって初めて成立する。
国際指名手配、島もそうだが一部の銀行なりは資産が凍結されてしまう。特に有価証券など、保有者が明らかなものは扱いが困難だ。
――シュタッフガルド総支配人は、とてもよくやってくれている。俺が資金で困らないのは、彼の力が極めて多大だな。
ルワンダから出られないのは同じ、鉱物資源では無い。条件が絞りこまれてゆく。
「徴兵だが、男女ともに?」
「少年は兵士に、少女は家事や性的搾取にです」
不埒者がやることは世界共通だ。人間が時代を越えて変わらず求めるものが一緒というのがよくわかる。
――人身売買か。吐き気がするよ。
ギネヴィアやマグロウから一端を耳にしたことがあった。三桁単位で行方不明者が数えられることがままあると。
――キールのとこでも事件があったからな。あとコロラドが連れてきた奴が、シエラレオネからきてたか。
裏ビジネスとしての活動を絡めているならば、金を産み出すことが出来ると踏む。
「ニャンザ警察補佐官、確たる証拠を集められるか?」
荷が勝ちすぎるとの返答を予め認めておく。出来ないことを無理にやらせて失敗では目も当てられない。
「条件次第で」
「なんだ」
大事だ、ほいほいと軽く受けられるより良い。
「従事する者の無条件での昇進。危険時の国外避難の保証。署名入りの命令書の発行。部下にはこれらをお約束していただきたい」
「警察長官に昇進の推薦は出きるが、俺がさせることは出来ん。その時は軍で良ければ相応の待遇を約束する。そこはどうだ?」
ニャンザ警視正にしてみれば、島の率直な返答が真剣に考えている証しに感じられた。
二つ返事が心配なのはお互い様で、他人の命運を背負っているのもまた同じだ。
「もちろんそれで宜しいです」
「貴官はどうする」
所属がどこかは問わない。常日頃部下の動向把握に努めていた、それだけに警察のみが絶対ではないと知っていた。
「もし満足いく結果が得られたなら、自分をクァトロに列ねていただきたく存じます」
じっとニャンザ警視正を見る、冗談や打算で言っているようには思えない。
「俺はずっとルワンダにいるわけではないぞ」
「承知しております。自分はコンゴでクァトロが残した足跡を知ったとき、背筋に電流が走ったような感覚を得ました。現実ではなく尾ひれがついた話だろうと解釈して自らを納得させたものです。ですがルワンダに一行がやってきて、みるみるうちに勢力を拡大させるのを見て確信致しました、現実なのだと」
「実際は泥をすすり、荒れ地を這いずり回るようなものだ。晴れやかな舞台になど上がることはない」
功績は表に出ず、汚名ばかりを着ることになる。そのせいでソマリアでは孤立し、更には犯罪者の仲間入りをしたと口にする。
夢見るような居場所などではない、それは断言出来た。
「地獄ならルワンダで見てきています。それでも足りないというなら、シリアでもソマリアでも行きましょう」
目をそらさずに堂々と意見する、そこに揺るぎない信念を感じた。
「――二十九だ」
「はい?」
理解できるはずもない一言。それに反応出来たのは側近でも極わずか、稀にしか無い島の満額回答だった。
「俺が勝手に心の中でそう数えているだけだ。ニャンザにクァトロナンバー二十九番を与える」
「クァトロナンバー……お認めいただけたと解釈します。公僕としてルワンダに忠誠を誓っておりますが、等しく閣下に忠誠を捧げる所存!」
島の斜め後ろに控えているサルミエ大尉、彼が知るナンバーは十番台、二十番台に穴が多い。言ったように胸に秘めているだけで本人に伝えることをしていないのが幾つかあるのだ。
「今後自ら死を選ぶことを禁ずる。どうしても死ぬ場合は、前を向いて死ね」
「ウィ パトロン!」
軍人が殆どのクァトロ、そこに警察メンバーが加わった。情報統制能力、一般治安維持の手腕は別口で期待できる。ニャンザは敬礼すると部屋を出た。
――好き好んで火中の栗を拾うわけだ。人のことは言えんがね。
◇
「ご無沙汰しておりました」
世界中を回りようやく帰還です。ロマノフスキー大佐が仮司令室に顔を出す。
「お、戻ったか。旅はどうだった」
――厳戒態勢三日目、さすが兄弟だ。
最近離れて勤務することばかりで、会えば久しぶりになる。頭脳が同じところに居ても意義は薄い、別にどこかの内閣や国軍総本部でもないのだから。
「ニカラグアでは生意気な弟子が来て空港で追い返されるわ、イエメンでは船酔いを体験する前に背を押されるわと、全く休まりませんな」
やはり戦場が一番落ち着きます。笑いながら何かおかしい点でもありますか、などとおどけてみせる。
「あいつ、居ないと思ったらそんなところに居たか。まあいいさ、近く騒動が起きる予定だ。良かったな始まる前に席につけて」
ショータイムが途中参加では盛り上がりに欠ける。同じように軽口を返してやる。二人の関係は十年前からずっとこうだった。
「良い子でお留守番をしていた奴を褒めておきましょう。概ね順調、これが報告です」
「そうか」
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