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裏切り
淡路博隆は意識が回復したとき、その場には何十体ものマネキンが、時計仕掛けで動き回っているように見えた。
幻覚と現実のはざまで、博隆は正気を取り戻そうとするように、また「ぬぉーっ」という呻き声をあげた。
手錠と首輪はますます食い込んでいく。
それに加えて虐待だ。蹴られた痛みが身体の節々へと増していく。
なぜ認知症を患っていた自分の母親が回復し、まるで玩具でも見るように自分を見ているのか、なぜ髪の長い女と大柄な丸顔の男が、博隆をせせら笑っているのか、なぜ老人たちはこんな中で騒々しく元気にしていられるのか、全てが博隆の理解の範疇を超えていた。
信じられないことに、隆幸とそのガールフレンドと思しき女は、手錠と首輪を外されて自由になっているようだ。
「母さん、隆幸、隆幸、母さん」
身体の自由を奪われ、こんなに苦しんでいるのに、無視されるはずがないと、子供のように博隆は泣き叫び始めた。
この場所で羞恥心なんてない。とにかく自由にならなければ。
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