それでは、妖怪

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支部会長は朱雀の隣に立った。 「君に折り入ってお願いがあるのだよ。」 「まさか・・・」 「そのまさかだよ。」 会長は朱雀の肩に手を掛けた。 「例の地に、また行ってくれ。」 朱雀の顔色はみるみる青くなっていった。 震え声を絞り出す。 「あ、あの、前に一度失敗して、こんな体に・・・。」 「例え死にかけても、こうして体は保てるよ。」 「形だけではありませんか。 神経も働かないし、味も分からないし、食べた物がそのまま出てきちゃうし・・・。」 「逆に言えば、脳以外のあらゆる内臓が機能していないのだから、栄養はほとんど摂取しなくて済む。」 「でも、」 「君はいつでも、肉体を捨てられるんだよ。いざとなったら、脳だけ残して逃げればいい。魔法使いチームを待機させておくから。」 「あの、」 「誰もやりたがらないんだよ。」 会長は肩に置いた手に力を込め、朱雀のすぐ耳元でささやいた。 「それとも、君にかかった魔法を全て解除してあげようか?」 「ひいっ・・・!」 「私が一言口にすれば、君は死ぬんだよ。理解できるかい?」 「・・・・・・!」 朱雀は悔しくてたまらないといった口調で、泣きながら言った。 「あたしが、封印、します。」 「それでいい。」 会長はまた朱雀の目の前の席に座った。 「君のその涙も、我々の魔法によるものだ。その事を忘れるな。」 「うう、ううっ・・・!」 「それでは、よろしく頼むよ。」 会長は笑みを浮かべ、紅茶を飲み干した。 朱雀は既に、会長が拷問されていた真偽について尋ねる事を忘れていた。 唯一生きている器官である脳までもが、その機能を止めてしまったかのようであった。
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