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ただただ広い、赤い絨毯の敷かれた大部屋
その中央よりやや奥にひっそりと佇む様にはちょうど人一人が座れる程の小さな玉座
扉を開いた先にあったのがそれだ
それ以外には二階建ての廊下であろう石畳とそれを導く様に建てられたよくある神殿の物と酷似した柱があるのみ
先程ののどかな光景から比較して、あまりの殺風景さに私は緊張感から息を飲む
私達が玉座に向かってゆっくりと歩き出すと、どこからか少女らしき声が反響してきた
「ふぅむ
思った通り乱暴な方々ですね!」
「隠れてないで出て来たらどうなんだ?」
声の主にそう返すのは赤髪の彼
彼は直ぐ様、持っていた荷物一式を放り出し、背に隠していた大斧を取り出すと、その縮められていた柄がカコンカコンと小気味良い音を立てて伸び、すぐにそれを右肩に担いだ
斧は片刃で、斧頭の刃の後ろ側に向かって、この武器の威力を増す為に設置されている無骨で重厚そうな動力機関が取り付けられている
あまりにも奇怪なその武器を見てか、声の主が再び声を漏らす
「……なるほど、貴方が最近巷で有名な『機装斧の勇者』、レオン・アンダーソンさんですね」
「だとしたら、どうするってんだ?」
彼が不敵な笑みを浮かべながら聞き返す
すると、何の前触れもなく玉座の影から、するりと少女が湧き出る様に現れたのだ
少女はさらさらとした長く真っ直ぐな金髪をしており、その目は深紅、ノースリーブのブラウスに暖色系のチェック柄のミニスカート、ニーハイブーツを履き、手には二の腕までを覆う長い手袋をしている
背には細身の剣を携えており、その背は低く、歳も10代前半の様なあどけなさがあった
それにも関わらず彼女が纏っている異様な空気に気圧された私達は思わずたじろぎ、彼女に対しての警戒心を強める
「転移魔法……
レオン、あの女の子只者じゃないわ!」
私は声を荒げて身構える
転移魔法は通常使われる魔法とは性質の全く異なる特殊なもの
対応する媒体を用いて瞬時に移動する為の非常に高度な魔法とされている
少なくとも、人間で使える者の数は限られており、これを使える者と言うのは相応の実力者である事を裏付ける証明と言っても過言ではない
「ふふふ……
何はともあれ、ご足労ありがとうございます
お待ちしておりましたよ
勇者ご一行様」
彼女は玉座の前でスカートの裾の両端を軽く指でつまみ上げながら私達に向かって丁寧にお辞儀をした
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