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「おいっ!
お前少しは気を付けろ……!
って……」
金髪の青年が制止するも、そんな事はお構い無しだ
すると、驚愕、いや意表を突かれる物が私達の目に飛び込んで来た
私達の目の前には広大な畑が広がり、その先にそびえ建つ城の城門に向かって用水路が伸び、それはまるで細い堀の様になっている
畑には、手入れが施されており、少なくとも我々が今まで見て来た農村とは格の違う、もはや美しささえ感じられた
広大さも見た事の無いもので、伊達に農業貿易国家と呼ばれている訳ではない事が一目で分かる
「あっ……」
「こいつぁ……」
赤髪の彼は大きく口を開けたまま唖然とする
私も同じく、彼の様に息を呑んでいた
魔王城などと呼ばれる事に反して、あまりに平和な光景に驚きと共に不思議と感じてしまう安堵を隠す事が出来なかったのだろう……
赤髪の彼は、そっと私の肩を抱き寄せる
「……もし、だ
俺達が生き残れたなら……」
彼はその風貌にも、性格にも似合わず恥ずかしげに小さくそう呟いたが、ぐっと堪える様に言葉を切ってしまう
「いや、何でもない……」
その不安混じりの思い詰めた表情を浮かべて言葉を誤魔化した彼の言いたい事は大いに予想が付いた
今の私に、彼の優しい言葉に返す言葉など持っていない、それどころか、そんなものを返す資格など私には無い
彼も私がそれに応える事は無いだろうと言う事も同時に察しが付いていた様で、私の肩に回した腕をゆっくりと離し、顔を両手で叩いた
私にとっても、ここはある意味一つの終着点で、事によっては一つの踏み台に過ぎない
ただ、命の保証が無いこの場所が彼らの墓場であると言う事だけは、彼らは感じている様だった
分かっている事はそのくらいなものだ
ここが彼らにとっての墓場だとして、私はどこかで、ここが私にとって安息の地になるやも知れぬと直感している所があった事に、少しばかり恐怖を感じていた
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