序章

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    「姫様、姫様ぁー!?  どちらですかぁー?」  私を探す心配そうな声が、風に乗って聞こえてくる。  あぁ……どうしよう。  どこに身を隠せばいい?  キョロキョロと首を巡らす。  ここは、お父様のお住まいの寝殿の端。  左に行けばお兄様のお住まいの東の対。  右に行けば女房達に見つかってしまう!  どちらにも、行けない。  ……隠れる場所なんて、ない。  もう……いっそ庭に降りて、人気(ひとけ)の少ない北の対の簀子(すのこ)か渡殿(わたどの)の下にでも潜り込んでしまおうか……?  でも、ね。こう見えても私、もうずっと『物静かなお姫様』で過ごしてきたの。  こんな状況は生まれてこのかた初体験。  だから……やっぱり躊躇ってしまう。  あぁ、違う違う。  勘違いしないでね?  足が汚れるのが嫌だとか、そういう事じゃなくて。  私が長い間、胸に秘めてた想いをようやく実行する日が来たんだ……っていう未知の世界への恐怖。  そして、少しの罪悪感。 「もう、おひぃさまぁー!どこに行っちゃったんですかぁ!!」  悲鳴にも似た叫び声に、はっと我に返った。  いけない!  早く隠れないと、本当に見つかっちゃう。  悩んだり迷ってる暇はない。私を探す声はもうすぐそこまで迫って来ている。  急いでここから離れなきゃ。    
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