【第一章】来訪者

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「ハハハハ。バレてしまいましたか。つい最近、たまたまそのランクの物を手にする機会がありまして、今回はそれを使わせていただきました。お口に合ったようでなによりです」 「お気遣い痛み入ります。時間に遅れてやって来た無作法者の私には、勿体無い代物です」 「恐れ入ります」 そうして、 男はコーヒーをさらに口へ含む。 美味しそうに味わうその姿に、和樹は次第に拍子抜けするような感覚を感じてきていた。 こんな男なら、こんな回りくどく情報を引き出さずとも、今すぐ拘束して無理矢理暴力に訴えても問題無いのではないか? と、そんなことを思い始めていた。 心の奥で冷静に判断する裏腹、正直に面倒に感じるのもリアルだ。 どうせ最終的にはそういうことになる。 男の身動きを一切取れなくし、体の隅々まで調べ尽くし、外部への連絡等の危険要素を取り除いた所で、事に移す。 元々こんなことをしているのは、単に素の状態でいる時の情報を知りたかったという点と、少しでも油断させて事に移りやすくするというただそれだけのことでしかない。 前者は拘束してからでも時間をかければ結局絞り出せる。 なら、 構わないのではないか? と和樹は思い始めていた。 しかし、 和樹は思考を一時中断するハメとなった。 男は、まるで和樹のそんな心理を見抜いていたかのように、突如としてカップをカツンと音を鳴らして机に置いたのだ。 無作法……とまではいかないが、今までよりも明らかに違いを感じるほどの音だった。 和樹はそれで表情の一つも変えはしなかったが、背中に冷たい汗が流れるのを感じ取った。 そのカップを置く音が、男が何か話す、その前触れのように思えたからだ。
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