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「フォォォ……ホァチャアァァッ!!」
鳥の鳴き声のような、甲高い叫び声が響く。
仮面ライダーメテオが、己の手足を使った打撃をキャンサー・ゾディアーツに叩き込む度に発せられていた。
截拳道。
日本ではジークンドーと呼ばれるこの拳法は、かの有名な格闘家ブルース・リーが幼少期より学んだ、詠春拳、節拳などのカンフーの技術に、レスリング、ボクシング、サバット、合気道、柔道などさまざまな格闘技の要素が取り入れられている武道である。
機械的な暗記法に捕われない幅広い戦術、打撃の度に発する独特な掛け声が特徴で、咽や胸部などの急所を的確に攻める戦法は、実戦における戦闘力も非常に高く、技術を完璧にマスターした者がその拳を奮えば、そこら辺の路地裏にたむろしている、スキルアウトの集団など軽く一蹴する強さを発揮する。
佐天涙子に、そのような専門的な知識は持ち合わせていないが、子供心に格闘家に憧れていた弟が、テレビに映るブルース・リーの物真似をしていた事から、メテオの戦術には見覚えがあった。
しかし、テレビの模倣の域を出ない少年と、己の戦術として本格的に取り入れられた仮面ライダーとでは、その技術には雲泥の差が存在する。
端的に言って、佐天にはメテオの拳が見えていなかった。
理由は簡単。拳の速度が速すぎるのだ。
ブルース・リーの映像作品にも、その拳の速さ故に、彼の打撃の場面のみ再生速度を遅くして編集されたものも存在する。
戦いを見守る佐天には、メテオの拳は黒い残像にしか見えず、時折聞こえてくる鳥のような掛け声が、彼がキャンサー・ゾディアーツに攻撃を加えている事を暗示していた。
だが、一般人なら一撃で意識を刈り取られ、場合によっては内臓に致命的な損傷を受ける打撃の連打、それを受けてなお、蟹座の一二使徒(ホロスコープス)にダメージはない。
「聞いていた通りだな。大した防御力だ」
「そりゃ残念だったね。アタシじゃなけりゃ勝てたと思うよ。一人プラネタリウムの旦那」
依然として崩れる事のない笑いは、ゾディアーツの幹部としての余裕のようにも思える。
「お前の目的は何だ? 何故彼女を襲う」
「それを聞かれてアタシが素直に答えると思った?」
「ならばその体に聞くまでだ!!」
「口と甲羅は硬いのが自慢なのさ」
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