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しかし、ワタル達が一番驚いているのはそこではない。
(こいつ……術式を組んで無いのか!?)
以前に述べた通り、どんな魔法を発現させる時でも術式の構築は必要だ。それは魔力の性質を変え、魔力に動きを与える。いわば魔法の設計図に等しい。そのためどんな魔法であろうと、魔力の流れには一定の法則性がある。
だが、シノンには『それ』がない。今彼女が行っているのは、各々の部品から手品のように一瞬で、作り方も知らないのにひとつの機械を作り上げているようなもの。あれだけの魔力を術式なしで制御する離れ業だ。
天高く荒れ狂う炎は、数秒でシノンの掌に集まった。バランスボール程に膨れ上がったそれをシノンは放つ──というよりは叩きつけるように飛ばす。
爆音が炸裂した。
炎はルビーマンティスに触れた瞬間に扇状に広がり、その体を飲み込んだ。頭から足までの全身に渡る赤が、一瞬で橙色に染まる。
そして数秒後、その輪郭が、煙のように消えた。やがて炎も収まったとき、そこには何も無かった。
宣言通りの、完全な消滅だった。
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