Sweet・Travel

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工房の中には、何人か職人がいて、あの赤銅色の硝子を作っていた。 茜色の火の中に、硝子の原料を入れると、火花が、パッと散る。 「…綺麗。」 智世は、硝子や炎の赤を見て、そう、言ったんだろうけど、俺は、ちょっと、違う見方をしていた。 すべてが、綺麗なんだ。 雑多な工房の中を彩る炎も、綺麗だと思うけど、なによりも、綺麗だと思ったのは、熟練の職人の手の動きや、真剣な眼差しだった。 仕事に、誇りを持ってるんだって、それを見ただけで、思う。 自分の仕事に、誇りを持ててるのかな…俺は…。 俺を頼ってくる生徒達のためにも、もっと、自信と誇りを持って、仕事を、やらなくちゃな…と、思わせてくれた。 炉の中から出て来た真っ赤に燃える硝子を、思い描く形に、職人達は、変えていく。 魔法のように、ぐにゃりと曲がる硝子が、不思議だった。 冷えてくると、見慣れた赤が、顔を見せ始める。 隣の部屋では、別の職人達が、磨きや削りの加工をしていた。 こっちも、すごい繊細な仕事だよな。 ほんの少しの加減で、出来不出来が、すごく変わる。 出来上がった物は、光り輝いている。 「あれ見て…キラキラだよね♪綺麗だよね♪ ねっ、浩史?」 「うん…綺麗だ。半端なく綺麗だ。」 見入っていると、背後から、声がした。 「…満足していただけましたか?…私の工房を?」 振り返ると、そこには、爽やかな笑顔の俺達と同じくらいの年齢の青年が、一人、立っていた。 「はじめまして、お客人。私は、エミリオと言います。ここのオーナーをしています…と、言っても、親父から、後を託されて、一年にも満たない、新前ですがね。」
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