第四章-ハッピーエンドとエクスカリバー

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 弾丸に内臓を掻き回されるよりも激しい痛みで涙が零れる。  激痛に泣き言を漏らす暇もなく、俺の体が引き摺り倒された。ミオがもたれかかるように俺の体の上に倒れ、その上を横薙ぎに振るわれた鎌が通り抜けた。  すぐに立ち上がりたいが痛みが体力を奪って動けない。覆いかぶさったミオも限界らしく、血走った眼で喘鳴を吐いていた。  鎌が振り上げられる。  このままだと2人仲良く串刺しだ。  でも動けない。気力も薄れ、死が目前に迫っているのに半分諦めた思考は動かない。 「きゃは」  短い笑い声のあと、今度こそギロチンとなった鎌が振り下ろされた。  鎌の切っ先が真っ直ぐこちらに向かう。  鈍い金属音が耳元で響き、あまりに重い振動に脳と胃が揺れて吐き気が込み上げる。  ギロチンは俺とミオを刺し貫きはしなかった。  落下する鎌の腹をカスミの飛び蹴りが撃ち抜き、強引に軌道を逸らす。 「浮気禁止!」  どこにそんな冗談を言う余裕があるのか、カスミは両手で俺とミオを引き上げる。無理矢理立たされたが、止まってる暇は無い。飛来するカマキリをリボルバーで迎撃して、横薙ぎの鎌をそれぞれ上下に躱す。  前へ前への動きが後ろへ後ろへに変化して、俺達はマカと距離を取った。  冗談を飛ばしたカスミの顔を覗くと、敵を睨む目は虚ろで力がない。相変わらず左手で腹部を押さえ、何かを我慢するように右手の中指を噛んでいた。 「逃げる手を探した方がいいかもな」 「逃げ場なんてないわ、この密室を作ったのは他ならぬマカなのよ。それに魂喰らいを前にして駆除師が逃げるなんて有り得ない」 「アイツをぶっ殺したい気持ちは一緒だけど、死んでから評価されても意味無いだろ」 「うるさい、マカが魂喰らいだった今、貴方の疑惑も再浮上したわ。私と並んで戦う異常な身体能力から見て、貴方も魂喰らいなんでしょう?」 「違うって、俺は冷静に戦況を判断しただけだ。もう限界なんだよ。なあカスミ」  後退しつつ、同意を求めて隣を見ると、目線をマカから俺へと移したカスミが熱い息で呼吸をしていた。目線の先を正確に追うと、左腕の痛々しい怪我を凝視している。  自分で見る気にもなれない傷口は真っ赤に抉れ、血ではなく肉と脂肪が滴っていた。再発した吐き気を喉の奥にどうにか飲み込む。 「カスミ? どうした? この怪我なら大丈夫だ、それよりなにか良い手はあるか?」
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