第四章-ハッピーエンドとエクスカリバー

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 中肢を両方失ったことで胸部が垂れて、マカは鎌の1つを床に突き立てて体勢を維持する。  いける。いけるぞ。  カスミがマカの胸部を蹴り上げ、鎌足の根元に掴み掛る。  鎌すらなくなればそこにいるのはただの大きな虫けらだ。全力で阻止しようとマカが身をよじり、大顎でカスミに喰らいつこうとするがその牙を俺が受け止めた。  鋭利な牙が掌を裂き、零れる血が俺とカスミの顔に滴る。鎌足を引き千切ろうとするカスミにミオも加わり、2人の力で関節の軋む音がした。 「きゃあああああああああああああああああ! …………なんちゃってん」 「こほっ」 「くっ」  空気の漏れるような声が2つ同時に聞こえた。  マカの逆三角形の顔を睨んでいた視線を、声を追って下ろすと、そこにはあってはならない光景があった。  鎌肢に張り付いていたはずのカスミが床に仰向けになって倒れ、腹部から死に至る量の血を噴出させていた。引き裂かれた腹の上には、カマキリが1匹乗っかっている。  同じように床に落下したミオの足首から血が漏れる。腱が切られたのか動けなくなったミオが手をついて四つん這いになり、その周囲を2匹のカマキリが旋回していた。  馬鹿な。カマキリは全部駆除したはず。 「きゃははは、最初から3匹隠しておいたのでしたん。マカちゃんったら天才ね」  俺とカスミを囮にしてミオを無防備にしただけの事はある。策士マカの詐術にまんまと騙された。  マカが首を振ると俺の体は簡単に振り払われる。段ボールがクッションになって助かるが、状況は最悪だった。 「はああああん、ついにこの瞬間が来ましたねん。お姉様ん」  鎌足を床に刺して歩くマカが顔をミオに接近させて、喜びを表現したいのか大顎を激しく開閉させる。  両足の自由を奪われても戦意を失わないミオは、左手だけで体を支えて右手でリボルバーの引き金を引く。しかし、撃鉄は空しい音を立てて残弾が無いことを告げた。  憎悪の炎が灯る目で、かつての仲間を睨むミオが悔しげに唇を噛んだ。  そんな様子を見てマカは全身を揺すって喜びに悶える。 「カスミ!」  絶望的な状況の中、段ボールの沼から抜け出してカスミのもとへ向かう。ミオが手に入った今、最早俺など眼中にないのかマカの足元に入っても完全に無視だ。  都合が良いので俺も無視して、血の海に沈むカスミに駆け寄る。
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