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心
―集配所―
「結局これどうするんだ?」
「さぁな」
「宛先も書かれてないからなぁ、そのうち処分されるだろう」
宛先不明の手紙の山を見て男達がため息をつく。
「そんなものを分けてなんになるんだ?」
「見てみろよ、コレなんかメールアドレス書いてあるぜ」
手紙を分けながら男が笑う。
「結局、サーバー廃止になんなかったなぁ」
「だから言っただろ、メールがなくなるわけないって」
「でも、手紙は増えたよなぁ」
サイバーテロの1件から手紙を利用するものが増えた。
テロ直後はメールサーバー廃止法案や、メール利用規制なども囁かれたのに加え、手紙ブームもあり急増した手紙利用者も、法案が不発におわったことで今は緩やかな右肩くだりだ。
「そういえば、このあいだTVでどっかの社長が言ってたぜ『手紙は心です』って」
「それ俺も見た、最近急成長した企業の女社長だろ」
「あれちょっと良かったよな」
再び宛先不明の手紙に目をむけ一人の男がつぶやく。
「住所にメールアドレスを書いた奴も、きっと相手に何か伝えたかったんだろうな」
その言葉に皆黙り込む。
「なぁ…これ届くといいな」
メールアドレスと『お母さんへ』と書かれた手紙を眺め呟く。男達はこの手紙が届かないのはわかってる。わかってはいるが、届いて欲しいという願いと、自分達の仕事を再びかみしめるかのように、皆顔を合わせ静かに笑う。
「さ、仕事仕事」
誰かの言葉に重い腰をあげ、各自また仕分け作業に戻る。
『手紙は心です』
その言葉を胸に、男達は今日も手紙を仕分けする
-完-
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