変化

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  「手紙は…言葉です」   女が顔をあげ「メールだって言葉よ!」と言い返す。その言葉は怒りとも悲しみとも取れる感情であった。 「でも、手紙ってそうゆうものなんです」 山田は女を責めるわけでもなくただ続ける。 「手紙は人が自分の手で書きます。そこには自分の字が残ります。その字には自分の心が入ります。心は相手に届きます。ただそれだけなんです。メールに心がないとは言いません。でも、自分で書いた字より、はるかに心は伝わりにくい。それはメールを使う皆が同じ文字だからです。手紙の良さはそこにあると思います。相手がどうとらえるかはわかりませんが…」 山田の言葉に女が黙り込む。 「そう、祖母から教えてもらいました。では、失礼します」 山田が席を立とうとした瞬間 「待って」 女が山田を引き止め言った。 「手紙には心がある…そう。だからかしら。今まで門前払いされていた会社からも外注がきてる。あなたが送った約300通の手紙は既にあなただけの問題じゃないのよ。あなたにしてみれば謝罪しただけかもしれないけど、会社に利益をもたらしたには違いないわ」 女は少し考え言葉を続ける。 「その功績をおおっぴらに讃えることはできないけど、あなたの存在は会社に必要なの。確かに皆が同じ文字なら感情は伝わりにくいわね…そうよ、あなたが書いてくれればいいわ!」 「へ!?」 山田は思わず声をあげた。 「へ!?じゃないわ。あなたの字は読みやすいし、取引先でも好感を得ているわ。謝罪の手紙及び休暇のお知らせ、お歳暮やお中元のお礼それらは手紙を使うわよ。他は今まで通りメールよ。でもあなた一人じゃ大変ね。字の綺麗な者が数名欲しいわ…」 女は山田も見ずに話を進める。 聞こえているのかいないのか、山田はただ呆然とする。 「面倒だから一つ部署を作りましょう。山田、あなたが仕切るのよ」 「あ…」 山田は小さく声を漏らす。 「大丈夫『心』は伝わるわ。私を誰だと思っているの?言ってごらんなさい」 山田は声を絞りだした。 「き…如月社長です」 「そうよ。わかればいいわ。必要なものは私に直接言いなさい。」 女はドアをあける。 「部署の名前はあなたが考えるといいわ、忙しくなるわよ」 そう言って女は部屋を後にした。 山田はドアの横でつぶやく。 「婆ちゃん…手紙って…なんだ?」
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