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夕方の公園で私は一人ため息をついた。そのため息は都内の汚れた空気と同化し、更に私を責め立てる。
「『君の姿は新入社員には見せられない』かぁ……なんでいつも私だけせめられるんだろ。もうやめようかな……」
私は新卒で入社し今年で3年目なる。まだ経験は浅いが、一流の会社だけにキャリアなど関係ない対応がされる。入社20年の上司と私の仕事量は然程変わりはなかった。
再びため息をついた。
「はぁ、一流かぁ。私には重すぎるよ。」
こうしてしばらく下に目を落としていた私の耳に掛け声が聞こえた。
「頑張れ、頑張れ」
私は思わず顔をあげた。
そこには自転車の練習をしている子どもと父親がいた。必死ペダルをこいでふらつきながらも前に進もうとする子どもに、それを大声で応援している父親。
「いてっ、またこけちった」
そういって自転車を起こすと再び股がりフラフラしながらも走り出した。
そしてまたバランスを崩し倒れる。
また自転車を起こし力強くペダルを踏む。
しばらくこの繰り返しだった。父親は言葉をかけるだけで手は出していなかった。
「あの子強いな。何であんなに何度も何度も起き上がれるんだろ」
その時、父親の掛け声が公園に響いた。
「まこと。もっと自信を持て。思いっきりペダルを踏め」
次の瞬間、その子どもは風に乗って走り始めた。優雅に公園を自転車で走りまわっている。
「自信かぁ。自分を信じる」
日もすっかり落ち辺りは暗くなり始めていた。
携帯を取り出すと丁度電話がかかってきた。上司の名前が表示されている。
また仕事の文句を言われるのだろうか。恐る恐る電話に出る。
「はい。………はい、私にですか。是非やらせていただきます。はい、ありがとうございます。失礼します」
その電話は、今会社が進めている大きなプロジェクトを私に任せる、という内容だった。
「自信を持て。よしっ。頑張るか。」
私は上司の手を信じ過ぎていた。そのせいで自分に自信がなくなり、自分の手を信じることができなくなっていた。
私はあの子どもを見て分かった気がする。
本当に信じなければならない、信じる先を。
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