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「奇妙な話 売ります?……なんだそれ」
俺の住むアパートの一階部分は店舗が入っている。そこに店を構える雑貨屋は、少し……いや、だいぶ変わっている。
この前は【無いもの売ります】という貼り紙と一緒に、絵に描かれた鉄砲を売っていた。
これで何で『無いもの』なのかと尋ねると、「鉄砲の絵はあるけど、本物の鉄砲は無い。これがほんとの『無鉄砲』」とダジャレを言っていた。
これでよく店が潰れないと思う。本気で店を続ける気があるとはとても思えなかった。
俺は、その雑貨屋の店主に見つからないように背を低くして、足早に店の前を通り過ぎようとした。
「おやおや、塩野祐輔君。そんなに急いで何処へ行く?」
しまった。捕まった。
この雑貨屋の店主、酒井恵美。66歳。でも本人はその年齢を絶対認めない。
「今日も良い品物が入ってるよ。奇妙な話。おひとつどうだい?」
この人の話は長い。だからなるべく関わりたくなかった。
そこへ、この婆さんとは違う、可愛らしい声が俺の耳に届く。
「あら、祐輔くん。これからバイト?」
俺の隣の402号室に住んでいる、愛しの水谷麻耶ちゃんだった。麻耶ちゃんは、何故かこの変わった雑貨屋でバイトをしていた。
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