恋謳う

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『…貴女は、素晴らしいな…ありがとうございます。 今後は、そうさせて頂くとしましょう。では、若者達の縁組みの準備を進めます』 飛鳥の提案は月下一族の女性は嫁に行き、男は婿養子となって月下以外の姓を名乗る事で、今までの慣習を回避させるというものだ。 『ほんに、聡明な方だ。我等が一族の血を絶やさぬ手段だけではなく、そうしつつも、慣習をかわすとは… 流石、守安一族が1500年待ち望みし咲耶姫。今生、貴女をくだされた天に感謝致しまする』 そう言って烏は飛鳥の前の床に降り、体を伏せた。 まあ、姿こそ鳥だが伏礼をとった形だ。 その様子を見て飛鳥は困惑した顔になり、俺に目を向ける。 「飛鳥、これからの飛鳥はさ、こんな事は普通にあるんだよ。 だから、慣れないといけないんだ。伏礼を飛鳥は嫌うけれど、これは相手の飛鳥への最大の敬意を示してくれているんだ。 それは、きちんと受け止めるべきだし、そうして飛鳥から相手に対して敬意を示す事になるんだよ。 人は人に対して敬意を抱けば、自ずと頭が下がるんだ。 それを止めろとは言えないだろ?」 「うん。分かった」 俺の説明に頭の良い飛鳥は直ぐに理解してくれて、月下族長(式にだか)に向かって頭を下げた。 「月下一族と斎伽一族は兄弟姉妹であると、先々代様は言われていました。 私も、そう思っています。 …戦いが終わり、帰る時に祐希は守安の皆に言いました。 『俺と飛鳥は、黎明の月にはならない。太陽の下、寄り添い生きる比翼の鳥となる。 だから、皆で一緒に、蒼天を仰ぎ見、生きて行こう』と。 この言葉を、月下の皆さんにも… 族長、生きましょう。共に、蒼天を見上げて」 『…はい』 月下族長…式…は、伏礼をとったまま返事をし、少しの間を置いて立ち上がった。
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