第十五幕 九十九

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「大将……」 「皆も、もう良いだろう。この家の主は既に変わっているのだ……、ならば新たなこの家の主に全てを任せよう。このまま無意味な攻防を繰り広げてもなんの意味もない、私達は元々人の役に立つべく生まれてきたのだからな。人を不幸にすることなど、これ以上あってはならぬよ」 「でも、だけど大将……」 「どうにもならねのか……」 「ワタシ……もっと此処に、みんなでいたかったよ……」 「燃やされるのは嫌だ……此処に残りてぇよ……」 沈んだ顔をする連中に、般若面は頭(かしら)らしく真っ直ぐな言葉で諭す。 「私達はもう充分生きた。一度は朽ちかけたところに、ジイさまに拾われ。物として人の傍に有る喜びを再び得ることができた。それがどれだけ幸せなことだったか。恵まれていたとは思わぬか、故にこれ以上望むでない」 形あるものは、いずれ朽ち果てる運命。 それは物も、人も同じなのだから。 「この家の主であったジイさまも死に、灰に還ったのだ。ならば今度は私達もそれに続き灰に還ろう。なに心配することはない、その辺は苦しくないよう彼女の連れであるあの青年がなんとか配慮してくれることだろうよ」 そうだろう。 と言うように、般若面はナツメに向かって小首を傾げた。 「だが――、やはりジイさまの遺言通りにしてやれなかった事は、心残りであるがな……」 そこで確信できた……。 彼らは、桜井氏の祖父をとり殺したりなどしていない。 「じっちゃ、怒るかな、僕達のこと」 「なにを言う。あんなにも懐の広い御方だ、きっと許してくれるで御座るよ。もっと人の役に立ちたい、もっと人の傍にいたいという叫びを聞き入れ、それを素晴らしいことだと褒めて下さった、あの方だぞ……」 「打ち捨てられた悲しみを癒し、再び居場所をくれた。俺達を救ってくれたジイさんの願い、ちゃんと守ってやりたかったな……」 「ああ……」 「……嬉しかったなぁ、この家にいてもいいって言われて」 「んだ……」 「幸せだったね……」 「そうだな」 桜井氏の祖父の死因は化け物ではなかったのだ。 それどころか。彼らは桜井氏の祖父に大切にされ、愛されていたのだ。
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