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 誰がいるんだ。一体誰が。動いていないから、つまり今までずっと扉の前にいたってことだろう?  精神的におかしい。これはただの登山者じゃない。俺達に遠慮してたって、座るくらいはするだろう。今まで立っていたのなら、俺達はそいつにその間眺められていたことになる。  身の毛がよだつとはこのことだろう。あまりに不気味で、俺の体が一気に冷えてしまった。  声が出せない。隣で寝ている友人には 何も伝えられない。  音がした。重くて固いであろう何かを、床に擦り付けるような音だ。  それは遅いものの、確実に迫っていた。そう、確実に、俺の方へ。  身の危険を感じた。どうしようもない恐怖が身を焦がすような勢いで俺を支配する。  それは、足元で止まったように感じた。音が止んで、余計に神経を刺激する。  寝袋の上から、足首に何かが触れた。冷たい。それは硬質で、とてもとても冷たい。  声が出ない。動けない。誰なんだ。一体何なんだ。誰か助けてくれ、誰か、誰か!  それは、何かを探るように足首に優しく触れている。何かが聴こえた。それは声らしい。ぶつぶつと呟いている。  聴きたくなかった。だけど、極限に精神を磨り減らしていた俺は、異常に聴覚が冴え渡ってしまっていた。 「ここかいな、ここかいな」  老人のように、嗄れ、掠れた声だった。 「ここかいな、ここかいな、わしの首はここかいな」  首。その言葉に、俺は思考が止まった。  その間にも、冷たい手はふくらはぎをまさぐり、やがて太ももに触れた。  徐々に触れる箇所が上へと移動していっている。
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