湯気

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「熱いので、お気を付けください。」 店員の声に形ばかり頷いて、私はそろそろとカップを窓際の席に運ぶ。 こぼさずに移動する要領は得たが、卓上に置くまでいつも緊張する。 音を立てないようにそっとカップを置くと、側のガラス戸にぱっと霧がかかった。 外ではとうとう雨が降り出したらしい。 私はおろしたばかりのスカートに皺が寄らないよう注意して椅子に腰掛けた。 香り立つ湯気が顔を包む。 この空白の一年で、私は何杯のジャスミンティーを口にしただろう。 花にすれば、何本の茉莉花を飲み込んだのだろうか。 生きた花としては一度も愛でたことのないジャスミンの花を。
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