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阿部には元々、「夜通し飲もう! 語り明かそう!」といった熱さはない。
特に移動当日は疲れるようで、久し振りな旧友の家での旧友との交遊に高揚するなんてことはなく、店での夕食を終えて帰宅するとすぐ寝る体勢に入るのが常だった。
だからこそ、優真も、
「お前の部屋にはどーせ鍵かかってんだろーし、大事なものは放置なんかしてねーだろ。
二人で話してこいよ。朝食も勝手にやらせてもらうから、ゆっくり話し合え」
3人での会食後、そう言って手のひらを出した安部に、遠慮なく自宅の鍵を預けたのだった。
二人で阿部を見送り、それじゃあ駅前の飲み屋にでも入ろうと、縁を促す。
しかし、縁はもじもじと煮え切らない態度で、積極的に応じる様子でない。
「あの、優真、えっと…ごめん」
挙げ句の台詞が、謝罪による拒絶。
この段階で断んのかよっという多少のイラつきが縁に伝わったらしい。
縁が慌てて言葉を続けた。
「あの、ね? お酒なしで、ちゃんと話がしたいなって、思うんだけど」
…そりゃそーだな、と、言われて優真も納得する。
無類の酒好きで、アルコールに強い縁が相手だった為、優真はこれまで通りバーでの話し合いを想定していた。
縁のことを思えばこそ飲まずに話すことなど全く念頭になかった優真だが、こんな流れでは何だか自分の方が常識はずれのようだ。
簡単にイラッとしてしまったこともあって、少しバツが悪い。
「判った。じゃ、ホテルで良いか?」
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