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うん、案ずるより産むが易しや。んなとこで悶々と考えとったかてしゃーないもんなっ。 なんて言われよーが今の俺にはなんもしてやれんし。 そら、まぁ、今の関係が壊れてしもたらどないしよとは思うけど…… 何で、壊れたらあかんのやろ。 や、だって俺しかあいつの事情知る奴おらへんし!あれは可愛い妹やしっ!俺があいつの拠り所になってやらんとあかんねんもんっ! ひょいと反動をつけて立ち上がると、思いきり体を伸ばす。 流石にこの本堂の屋根は壬生にいた頃より見晴らしが良く気持ち良い。 短く息を吐き出し眼下を眺める。 月明かりを柔らかく映した瓦屋根。 板を張っただけに近いボロ長屋。 少し離れた花街だけが闇夜に煌々と妖しい光を放っている。 そこに広がるのは見慣れた京の町だ。 ……あれにとって、此処はどんな風に映ってるんやろか。あれのおった世は此処とどんな風に違うんやろ。 あれはいつか……帰る、ねんな。 「……せやからいらんこと考えたらあかんねんてば」 考えてもわからんもんはわからへん。 あれは今此処におる。 取り敢えずはそれでええ。 なんでおるんか、帰る日が来るんか──来ぇへんのか。 それは誰にもわからへんねんから……。 僅かに胸に走った痛みに俺はふるりと首を振って、そっと手に持ったままの紙に視線を落とし、小さく笑った。 「……字ぃ、上手なったなぁ」
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