喪失

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そこでヒョイと立ち上がった山崎は薬を幾つか選び、小さな箱へと移した。 「痛み止めの薬に胃の薬‥‥っと。」 そうして本来の役目を思い出したかのように、いそいそと座敷を後にする。 二階の男達の内数人は毎晩酒を飲み続けているせいで、頭や腹の痛みがあるとぼやいていた。 酒に弱いのであれば飲まねば良いのに、同志の酌を断れない輩は殊の外多いものだ。 狙いはその中でも一番口の軽い男で、目星はもうつけている。 色んな変装をして情報収集にあたったが、この方法が一番危うくなく確実性があった。 わざわざ二条通りの薬屋から、大量の薬種を買い付けたのもその為だ。 俺は俺のやるべき任務をやるだけや。 気持ちを切り替えた山崎は、二階へと続く階段に向かって行った。 そして、その数日後‥‥ 南禅寺塔頭天授庵の肥後藩宿陣へ入ろうとした男を、新撰組の平隊士が捕まえたのだが‥‥ どうもその男が宮部に近しい者であったらしい事が判明した。 これにより警戒を強めた宮部が主な潜伏先であった四国屋から、長州藩邸へと身を隠してしまったらしい‥‥と連絡が入る。 折しも監察方が桝屋の主人、喜右衛門に辿り着いた頃とほぼ同時期の事である。 しゃーない、ほんならこっちはこっちで桝屋のおっさんの身辺、じっくりと探らしてもらおか。 他藩の藩士達が二百以上、京に流れ込み潜伏している。 何かの企みがあるには違いないのだ。 監察方の面々は尚も調査を進め続けた。 、
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