慟哭(な)いた赤鬼

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  目前に現れるは忍装束を纏った女。黒の布…否、髪を自在に操り再びこの身を縛らんとしたが、鬼の身に戻った俺には引き千切るなど雑作無い。其のまま髪を掴み、迫る地面へ女を叩き付けた。 衝突音の中にグエッと零れる声。……やめろ、少し楽しくなって来るじゃあ無えかえ。 ズダン、と着地、其のまま地を蹴って女へ掴み掛かる。意識飛び掛けた様子の女を木の幹に殴り付ければ、ゲ…とくぐもった悲鳴が又漏れ、白目を剥いた。 「んッんー…このまんま握り潰しちまっても良いけれども。 金熊に化けてまで、何ァんか企んでいやがるよなァ?」 「…… 、」 宙ぶらりんの身体に、力は無い。片手の中で事切れかけた狐忍の身をゆぅらゆら揺らし、半目を覗き込む。 「言わなけりゃア別に良いのよ、指の一本一本からゆぅっくり喰ろうてやるだけじゃ……美味そうな狐だなァ、 」 「……さっさと、喰ろうてしまえ!」 「じゃあ臟(はらわた)から喰ろうてやろうか、生きたまま…」 と、狐忍の懐より玉の様な物。素早く取り出された其れがにわかに強く輝き、共にバァン!!と音を放ち。 視界と耳を塞がれた俺が怯んでいる隙、手の中にあったそいつがするりと抜ける感触がした。 其れをどうにかする事等、目と耳を塞がれた状態では出来ぬまま……眩みと耳鳴りが消えた頃には、あの狐は跡形も無く消えてしまっていた。 「……あーあ、」 詰まらねぇ。 ……そう言えば。 先程あの狐が化けていた金熊が何か言うておった…思い出す。 "西方より向かい来る集団を補足"……。 ─ 其れは俺を砦、ひいてはこの大江山から引き離す為の口実か?はたまた本当の事か…… 出任せで出る言葉では無い、そう何処かで確信があった。…砦に匿われておったあの狐が取った行動である、とするなれば、次なる行動は唯一つ。 ぞく……と、嫌な予感がした。 俺にしては珍しい感覚だ。  
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