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ザザー
ザザー
波の音が聞こえる。僕は船着き場で、落ち行く夕陽を見つめていた。
今日も、義人を迎えに来たが、相変わらず、橙色に光る太陽が目に染みる。
しばらくすると、夕陽の中から何隻もの船が、禍々しいオレンジ色の光を浴び、こちらへ向かって来るのが見えた。
皆、仕事を終え、我が家へ帰宅するのだ。
その中の一隻、夕陽の光に負けないくらいにオレンジ色の船の上で、風間 義人は僕に向かって手を振った。
船の先端に立ち、笑いながら大きな声で
「おーい、湊(みなと)ー!」
と、義人は僕に向かって叫んでいる。
船着き場には他にも、漁師の家族や恋人がいたため、僕は急に恥ずかしくなり、船着き場を後にした。
いや、恥ずかしくなったから…
ただ、そんな明解な理由だけではない。僕は知っていたのだ。
何故、義人が毎日、毎日、船を出すのか、何故、毎日魚一匹捕ってこないのかも、僕は知っていたのだ。
そして、無理に笑う、義人の心中も、きっと僕は知っているはずだ。きっと…きっと…。
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