始まりの道ノ幕

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京の冬は冷える。 雪国とはまた違う、キンッと底冷えしきった空気が刺さる様な寒さが辛い。 そんな京の町にもまだ遠くではあるが、春の気配が静かに近付き始めた夜の出来事。 男が一人、灯りも持たず小路を歩いている。 今宵は満月。 家々の軒影がくっきりと出来る程の月明かりであった。 もとより色白なのであろう男の肌は、月光の中で蒼白くも見える。 通った鼻梁と引き結んだ形の良い唇。 闇の中で光りそうな程の鋭い双眸だがその瞳を時折、チラと左右に流す仕草に…何処か独特の色気を感じる。 背丈も高く、羽織物の上から見ても逞しそうな身体つき。 長めの美しい黒髪を、キリリと惣髪に結わえたこの男は、恐ろしい程の美丈夫だった。 歩きながら前を見据えていた男は、ほのりとでも笑えば色気が増しそうな唇を少し開き、白い息を吐く。 何か考え事があるのか…少し眉間に皺を寄せた険しい表情だが、不思議とそれが、男の美しい顔立ちを更に引き立てていた。 不意に冷たい風が吹きヒラリ、と散らつく白い… (…雪か…) 立ち止まり、フッと空を見上げた男の顔から険しさが消える。
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