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(…?雪…じゃねぇのか?)
男が見上げたのは、月の輝く雲ひとつない夜空。
(そういや満月だったな…雪なんざ降るわけねぇか…)
少し眩しそうに瞳を細めたとき再び風に吹かれ、余りの冷たさに思わず身を震わせる。
その風はヒラヒラと幾つかの白いモノを運んで来て、踊る様に舞わせると静かに男の足下に降らせた。
(…花びら?)
己の足下に落ちたモノをソッと拾い上げ、掌に乗せて気付く。
(…梅か…)
男はグルリと辺りを見回したが、咲いているのはこの付近では無さそうだ。
先程の風に乗って花弁の飛んで来た方角を見ると、帰り道から少し逸れそうだが…。
再び夜空を見上げてふと思う。
(こんな…良い月明かりで梅が拝めたら、何か思い付くかもな)
どうやら梅の花が見たくなったらしく、男は誘われる様に花弁が飛んで来たであろう方へ足を向ける。
(そんなに遠くねぇだろ)
先程までの険しい表情はとうに消え失せて、どことなく足取りも軽く歩みを進めた。
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