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「君に似て…少し頑固な所があるからなぁあの子は」
「ふふっ。せやからよぅ喧嘩になるんよ…」
「僕からしたらアレは喧嘩には見えなかったけどなぁ。可愛い妹をからかって苛めていただけだろう?」
クスクスと笑う女の肩を引き寄せながら男も笑う。
「流石。よぅ分かってはりますなぁ?ウチはあの子が可愛くてしゃあないん」
「そりゃ分かるさ。僕だって可愛くて仕方なかったんだから…いや、勿論、妹みたいな感じでだよ?」
話の途中で感じた視線に、男は慌てて付け加える。
「ふふっ。分かってます」
可笑しそうに笑う女を少し困った様に見た男は肩を竦める。
「やれやれ…苛める対象が僕だけになってしまったのか。お手柔らかに頼むよ、お松」
男はお松と呼んだ女の頬に唇を寄せた。
「苛めるやなんて人聞きの悪い…からかうの間違いどす」
「…どう違うのか聞きたい所だが…」
言いながら男は傍に置いてあった刀に素早く手を掛け、直ぐ様抜刀出来る態勢に。
と、同時に襖が無遠慮に開かれた。
「失礼、お邪魔でしたか?」
現れたのは若い男。
ニヤッと笑いながら部屋に入り後ろ手に襖を閉める。
「…君か…いつ江戸から?」
表情と態勢を緩めた男は座り直しながら不思議そうに珍入者に尋ねた。
聞かれた若い男は冷たい空気を孕んだ着流しの裾を、サッと軽く払って静かに火鉢の向こうに座る。
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