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「ん?あぁ、いいよ」
俺は笑顔でそう言ったつもりだった。でも金の事がやっぱり気になって、思うように笑顔が作れなかった。
それを隠すかのように、俺は彼女を相手に話し続けた。
「コーヒーと言えば、昔行ったタンザニアで飲んだコーヒーが最高だったね。キリマンジャロ山を眺めながらの『キリマンジャロ』を飲むのは、これぞ贅沢といった感じだったよ。あ、そうそう。知ってる?タンザニアには『ンゴロンゴロ』っていう地域があるんだよ。これじゃあ、しりとりが終わらなくなっちゃうよね」
この前テレビでやっていた内容を思い出しながら、俺はその内容をそのまま話した。
俺はタンザニアなんてところに行った事もないし、存在すら最近まで知らなかったくらいだ。
それでも、俺の話を興味深そうに瞳を輝かせながら彼女は聞いてくれた。
彼女との会話が弾む中、拓海がいれてくれているコーヒーの香りが、俺の居る場所まで漂ってくる。
すると、その香りをかき消すような冷たい風が店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
拓海のその声で、誰か客が入ってきたのがわかった。でも俺には関係ないことだ。俺は彼女との会話を楽しんだ。
「そうそう。しりとりって、魔除けの効果があったって知ってた?」
「魔除けですか」
「そうなんだ。昔の話で、雪山で遭難したり、迷い込んだお堂で一夜を過ごさなくなってしまった時に、一晩中しりとりをして、難を逃れるって話があるんだよ」
「へぇ」
「何でしりとりかっていうと、『物の怪』は、人間よりモノの名前を知らないから、しりとりをする事によって、人間の中に紛れ込んでいるかもしれない『物の怪』を探し出せる効果があるそうなんだ」
「なるほどねぇ」
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