890人が本棚に入れています
本棚に追加
/203ページ
「……えっ、と…」
「はーやーく」
あーん。と口を少しだけ開けている柚に視線も意識も奪われた。
赤い舌が美味しそうにチラチラと見える。自分でその暴走気味な思考を消す為スプーンにチャーハンを乗せることに意識を集中させた。
チャーハンを降ろしては乗せる。もやもやと頭を悩ませ、今の状況に耐えながら繰り返す。暫くしたらツンツンと服の袖を引っ張られ、催促された。俺はふぅー。と長い息を吐き出し覚悟を決める。
「………………、はい」
出来るだけ柚を見ないようにスプーンを差し出した筈だったが、スプーンに口を寄せる姿に何か惹きつけられるものを感じ視線が捕らわれた。躊躇も無くパクッと食べた柚はスプーンからゆっくりと口を離す。
「…美味しい」
ふわっと笑った柚に一種の脅威のようなものを感じた。感情を簡単に揺れ動かせる。再度あーんと無防備に口を開ける柚に俺も迷いは無くし与える。
なんか餌付けしてるみたいだ。
「あらあら、仲良しねぇ」
その声にビクッと姿勢を正した。すっかり頭から抜け落ちていた存在を思い出し、その声の方に恐る恐る振り返る。
「……母さん」
母さんは、ふふっと微笑ましそうな表情を浮かべ、お代わりのチャーハンとシュークリームを乗せたトレイを持っていた。
タイミング悪いから!!
最初のコメントを投稿しよう!