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「多以良君、君は料理が好きか?」
「うん!」
「多以良君、君は料理するのが楽しいか?」
「うん!」
「ならその気落ち、何があっても忘れないように。昨今の料理人は、利益しか考えていない。君のような存在がその気持ちを抱えたまま育つことを、私は切に願うよ」
「そんなの当たり前だよ! だって、僕は食べてくれた人に笑顔になってほしくて作ってるんだもん」
「そうか、それを聞けて安心だ。いつか君とはまたどこかで会えるだろう。その時君がどのように成長しているか楽しみにしている」
「うん、楽しみにしてて! おじさんのこと絶対驚かせるような料理を作るから!!」
「ああ、楽しみにして待ってるよ」
『第十二回、青年料理大会の優勝者は、大麻多以良(たいまたいら)君に決定しました! 多以良君、今の気持ちはどうですか?』
「物凄く嬉しいです。楽しく料理できましたし、審査員の皆さんに気に入っていただけるものが提供できて満足です」
『ほほう、楽しく料理ですか』
「はい、楽しく、です。僕の恩師、と言っても一回しかあったことがないですが、その人の教えの一つですね」
『なるほど、因みに差し支えなければその恩師はどのような方なの教えてもらってもよいですか?』
「はい、大丈夫ですよ。みなさんご存じかと思いますが梅林寺南風盛(ばいりんじはえもり)氏です」
『なんとあの料理界きっての巨匠が恩師とは、これは優勝してもおかしくはありませんね。――――さて、それではこのまま表彰式に移らせていただきます』
「……ふん、あの巨匠が恩師とか、裏で取引でもしてたんじゃないでしょうね」
「それは言いがかりだよ。それにあの人とは昔会ったきりで、それ以降一度も会うどころか話すこともしてないよ」
「……そうね、これは所詮負け惜しみだわ。あなたの料理が素晴らしいのは二位である私が、中生加永栄(なかおかながえ)が一番良くわかっているものね」
「そう言ってくれて嬉しいよ。っと、そろそろ行かなくちゃいけないから僕はこれで失礼するね」
「ええ、またどこかで会いましょ」
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