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新の私物のガイドブックと、「修学旅行のしおり」の自由行動の簡単な略図をとっかえひっかえ見るんだけど、どうもさっきから二人で同じ所をぐるぐる回ってるようにしか思えない。
5月の京都はよく晴れていて、歩くと汗が吹き出すほどだ。
学校指定のスニーカーも履き慣らし方が足りなかったのか、普段の運動不足が災いしたのか、足まで痛くなって来た。
少し立ち止まって水筒の最後の水を飲む。
「誰かに道聞いて戻ろうよ…」
そう言ってはみたけど、観光地のはずなのになぜか人一人通ってくれない。
また吹き出した汗をハンドタオルで拭っていたら、
「あの人に聞こう!」
まだ体力が残っていた新がいきなり駆け出す。
人?どこに?
古い歴史を感じさせる木造の建物の角を、オレらと同じ年格好の白っぽい服装の男子が曲がっていった…
ように見えた。
修学旅行生だろうか?地元の学生だろうか?
横顔に見覚えがある気がしたのは思い違いだろう…オレの家は代々東京で、京都に親戚も友達もいない…
やっとのことで新に追いつく。
手荷物用のリュックを背負った背中。汗で制服の白いYシャツがへばりついているのがはっきりわかる。たぶんオレの背中も同じだろう…
「ここ…普通の家じゃね?」
「でも確かにここに入っていったんだ」
まるで時代劇のような、趣のある木造の民家の戸口が並ぶ
「うなぎの寝床」って言うんだっけ?
いつの間にこんな所に来てたんだろう…
「あの、すいません!」
新が、剣道部で鍛えたよく通る声で呼びかける。
が、返事はない。
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