エピソード0 きん斗雲

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「茜ちゃん。さっき『きん斗雲は孫悟空の乗り物で、ひと飛び十万八千里』と言ったね?」  茜は素早く右手を上げ。 「言いました!」 「実はそれ……正解だけど不正解なんだ」 「ええっ? 不正解っ? とゆーか正解だけど不正解って意味がわからないのですが?」  キースは尚もゆっくりと歩みを進め。 「あっはっはっ。まぁそうだよね……正確に言えば――部分的には合ってるけど、部分的には間違ってる……ってところかな?」 『?』  相変わらずこの男の表現は曖昧過ぎて霞がかっている。  少女も茜も混乱気味に――頭に疑問符を浮かべているばかりである。  そんな問答をしている内に―― 「じゃあ、そろそろ本当の『きん斗雲』をお見せしよう」  とうとうキースも煙の塊――雲の前へとやって来た。 「実はこの雲…………僕も触れない」  言ってキースが雲に手を伸ばすと、キースの手も二人同様すり抜けていた。 「ぬぬぬっ! 何時ものパターンなら先生だけは触れるってパターンなのに……これは意表をつかれましたね」 「そ、そうなんですか?」  顎に手を当て目一杯首を捻る茜に、困惑の表情を浮かべたままの少女が問う。  キースはそんな二人のリアクションを一頻り楽しんだが、笑顔のまま両手を大きく広げ。 「二人共、ちょっと雲から離れてくれるかな?」 『?』  怪訝そうな顔をしながらも素直に雲から離れる少女達。  するとキースは雲から1~2歩ほど距離を置くと、突然『ちょんまげ』と書かれた背を見せた。  ――いや、正確にはマントに書かれている訳だが……。  兎も角、背を見せたかと思うと……今度は突然宙へと大きく飛び上る。 『――!』  呆気に取られる少女二人。  そしてキースは空中で器用に、 「よっ!」  一回転すると――片膝をつき、見事に着地を決めた……あの雲の上に! 「え! え? えっ?」 「おりょりょ?」  不思議な出来事に、頓狂な声を上げながら雲へと寄って来る少女と茜。 「ア、アレッ? さっきまですり抜けてたのに……何故?」  雲に触れるか触れないかの位置で手をかざす少女。そして茜にいたっては雲の下を覗き込み―― 「う~む……ちゃんと浮いてますねぇ。先生の脚も突き抜けていないのです」  まあ、それは見れば誰でもわかる事だ。
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