冬桜《パソコンver》

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 彼女の吐息と区別のつかない小さな声が徐々に大きくなる。突然、副店長は僕の腕を掴み、「いや」「駄目」と声を上げ始めた。どこか痛いとか本当に嫌で言ってるのか心配に思って動くのを止めようと思うけど、僕は気持ち良くて止めらずにそのまま動いていた。彼女の締め付けが強くなって、その台詞は意味のある言葉じゃないってコトに気付いた。段々声を荒げる彼女。鳴いてる。僕が鳴かせてる。「副店長、もしかしてイきそうですか?」と尋ねると、彼女は頷いて、僕の腕を強く掴み、首から背に掛けて反らすようにした。大きくなった声が突然途切れて、苦しそうに顔を歪めて、何かを言いたそうに口をパクパクと動かしている。  副店長がイってる。イってるんだ。きゅうきゅうと音が鳴りそうな位、きつい彼女の中で僕は必死に耐えた。しばらくして彼女が腕を離し、ぐったりと脱力して息を整えている。そんな彼女を見届けて僕もすぐに果てた。  嬉しかった。小さな子供がおなかいっぱいご飯を食べて眠たそうにしてるような表情をしてる副店長。僕は簡単に自分の始末をしてシャワーを浴びに行った。副店長がイった。感じて声を出してた。鳴いてた。本社人事部の奴が言ってたように鳴かせた。あのスーツと高そうな腕時計に並んだんだ。僕は勝ち誇った気分だった。  それから彼女は毎回イった。彼女の弱いところも覚えた。回を重ねる毎に彼女は僕にねだるような声をだし、僕の腕を掴んでイく。僕も気持ち良かったし、嬉しかったけど、人間って貪欲だと思う。僕はもっと彼女が欲しくなる。 「榎並さん、ゴールデンウイークは彼と旅行に行きます。後半だけ休みもらっていいですか?」  バイトに来ると、一緒に閉店まで入るコがそう言ってきた。 「うん。休暇願い、副店長に出しといて」  旅行。普通、付き合っていれば旅行とか行く。旅行といかないまでもデートとか食事とか、出掛けたりする。大学にいるカップルなんかペアリングしてたりするし。僕は副店長とデートしたことない。あのファミレスで食事したぐらいで。  僕は副店長と出掛けたくて、彼女の公休日に合わせて彼女の自宅に行った。大学の講義もあったけど、少し位サボっても成績には響かないし、卒業に必要な単位はほぼ取得していたから落としても構わなかった。でも彼女が心配するといけないから今日は休講で、とか、嘘をつく。
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