伽羅の移り香

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新選組屯所 あれから連れ戻されてしまった梨乃は、井上の作った粥を食べていた……いや、食べさせられていた。 「はい、あーん」 梨乃の口元につき出される匙。梨乃はギロリとその人を睨むと、渋々口を開ける。 「最初から素直に口開けばいいじゃん。梨乃ちゃん、ほんと強情だよね」 粥を咀嚼しながら、梨乃は匙を持つ沖田を睨み付けた。 一体どういう成り行きかは知らないが、気づけば沖田が目の前にいて、気づけば食べさせられる形になっていたまで。 別に梨乃が頼んだ訳では断じてない。 「……総司、あんまり言うとその首無くなるよ?」 「あはは!面白いなあ、良いよ。勝負しようか?」 梨乃の脅しも何のその。沖田は飄々としている。 「はい、あーん」 そしてまた口に運ばれる粥。自分で食べられる!と匙と茶碗を奪い取りたい梨乃だが、そんなことをしてもかわされるまでだろう。 悔しいが、食べさせてもらう他術は無い。 相変わらず満面の笑みで梨乃を見る沖田。きっと何年経っても、彼女が沖田に敵う日は来ないに違いない。 「美味しい?」 沖田の問いに頷く梨乃。 子供扱いされたのは悔しいが、井上の料理が不味い訳ではない。 沖田はそっか、と含み笑いをしながら粥を掬い、梨乃の口元に近づけた。
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