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勇者フール。
生まれたその瞬間から勇者となる運命を定められた、民衆の尊敬と憧れの対象。
彼は恐ろしいダンジョンの最奥に住まう魔王に戦いを挑み、大陸に平和をもたらそうと最後まで戦い抜いた。
彼の唯一無二の仲間であり共に魔王に戦いを挑んだ剣士、魔法使い、僧侶は無事生還した直後、涙ながらにこう語る。
『フールは私たち三人を助けるため魔王と相討ち、その若い命を散らすのを省みず、この大陸に平和をもたらした』と。
民衆はその勇者の最期に涙し、彼を伝説の勇者と口々に崇めたてた。
剣士たち三人が勇者の最期を民衆に伝えている丁度その頃、主を失い崩れ果てた魔王のダンジョンの前で、一人涙を流す若者がいた。
「ち、ちくしょー……なんで、なんで裏切るんすか……俺、頑張ったじゃん……魔王倒したじゃん……」
手足を縄で縛られ、パンツ一丁で泣き続けるこの青年。
何を隠そう、彼こそが魔王と相討ったはずの伝説の勇者、フール当人である。
そう、三人に裏切られたフールは、元ダンジョン前で放置プレイをされていた。
ダンジョンは崩れた、もといフールたちが壊しつくしたのだが、それでもこの場所は魔王のお膝元。
魔物がうろつくこんな場所でパンツ一丁とは、どうぞ食べて下さいと言っているようなものである。
だからフールは口止めに命を奪われなかったのだが、それは幸か不幸か分からない。
いくら勇者でも、魔物に食べられるのは普通に怖いのだ。いっそひと思いにヤってくれた方がマシなくらいに。
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