始まりと終わりは、似て非なるモノなり。

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その双眼はうっすら紫色に見え、今はいないアイツの事を思い出す。 「…久々に…殺りあって…みる…か?」 ただの黒猫がアイツの姿に見えて、本能的に鯉口を切り、久しく抜いていない俺の女を握りしめた。 「…いい女だ…な…。」 月の光で妖しく輝くお菊に見惚れながら、自分の腕力の衰えに愕然となった。 振り上げるつもりが大刀の重さを、上まで持っていけなかったからだ。 「ゴフッ!ガハッ!!」 肺が圧迫されるような、掻きむしりたくなる痛みと共に、勝手に激しい咳が出て大量の血が口から飛び出てしまった。 「…猫すら…斬れ…ね…ぇ…か…。」 剣だけなら、誰にも負けない自信があった。それはもう随分と前の事のように思えた。 弱気な心の内を言葉に出せば、身体中の力が全部消えていった。 自由が利かないまま、膝は崩れ前のめりで沈んでいく。 吐いた血の上に倒れ、しかも冷たい土の上。 労咳が進行して身体を蝕んでいく程、自分は布団の上で死んでゆくのだと恐れていた。 「……眠…ぃ…。」 武士として果てる事はなくとも、まがい物でも血まみれで土の上で死ねるんだ。 悪くない、このまま眠りたい…。
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