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俺の前には、笑いながら躍る黒猫が一匹。
幻の様に、ゆらゆらゆらゆらとしなやかに誘惑してくる。
長い尻尾の先がくるりと曲がっているのが妙に色っぽくて、こんな時なのに胸が高鳴りおかしな気分になってしまう。
「…なん…だよ。…誘ってんの…かよ…。そぅいや…最近…かまっ…て、やって…ねぇ…な…。」
空元気で動く訳のない腕に意識を集中すると、俺の身体は簡単に起き上がった。
「はっ…はは…。やるじゃ…ん、俺…。」
枕元に置いてある、愛しい俺の女を掴むと、しっとりとした艶が手の平に伝わる。
自分でも顔が綻ぶのがわかった。
ガタがきた俺の痩せ細った足に[ずんっ]と重みがのしかかる。血が下に向かって流れてゆく。
「なぁ~う、なぁぁ~う。」
俺を見ながら庭でくるくる回る黒猫は、毎日何処からかやって来ていた通い猫だ。
動けなくなって遊んでやれなくなっても、ずっと俺を見つめていた。
「…お待た…せ。」
「なぁ~う。」
よたつきながら、裸足で降り立つと黒猫は俺の足に擦り寄り、気持ち良さげなうっとりとした顔をした。
「…たまんねぇ…なぁ。…イッちま…ぅか…も…。」
気まぐれで近付き、気まぐれに離れていく。
少し歩いてちょこんと腰を降ろし、俺の顔を見上げてきた。
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