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HRが終わると、夕希(ゆき)は誰よりも早く小学校を後にする。
友達と遊ぶよりも素敵なことが家で待っているからだ。
一度も足を止めずに小走りで訪れたのは、小さな喫茶店、夕希の家の前だ。
太陽の色はまだ薄く、店頭のウインドウが光を反射した。
「ただいま、コーヤ!」
勢い良くドアを開けば、カランとベルの音がする。
このドアベルは、今この時間でなければこんなに軽やかには鳴らない。
シューの中に入ったクリームと同じ色の壁とチョコチップクッキーのように斑な木の床が、柔らかく光を吸って返すので、店内はいつだって仄かな明るさを保っている。
並んだ丸テーブルと椅子に客の姿は見当たらない。
ただ、ピアノの音楽が店の中をぼんやりと守っていた。
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