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カウンターの中に男が立っている。
きっちりとまとめた髪に白いカッターシャツと、カウンターで見えないが、腰から足首まである長い黒エプロン。
「おかえり、夕希」
そして向けられる、子供には浮かべられないような、どこにも無駄な力の入っていない微笑。
夕希は顔をくしゃりと崩した。
長らく祖母の家で大人に囲まれ暮らしてきた夕希は、同い年の友達よりも、幸也(こうや)と居るのが一等好きだった。
「今日は何が良い?」
幸也がくるりと背を向ける。開けた棚の中には、様々な種類の茶葉が入った、小さなビンがずらりと並んでいた。
理科室みたいだ、と夕希は思う。
「アールグレイのロイヤルミルクティー!」
「また? 好きだね、それ」
「コーヤだって、いつもダージリンばっかりじゃん」
唇を突き出した夕希に、幸也は「うん」と笑った。前もって沸かしてあったヤカンを取り、薄い緑色で蔦が描かれている、お揃いのポットとカップに注ぐ。
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