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「有り難う御座います」
パジャマ姿の天女は男にそう言うと、ポリ袋を塵捨て場に置いた。
男は天女の立振る舞いに見とれていた。体を曲げた時に浮かび上がるボディライン。垂れ下がる艶やかな黒髪から放たれる芳醇な香り。
「お仕事長いんですか?」
女は引っ越して間もないので、野窓に話せる人間は未だ居ない。話相手が欲しかったのだろう男に訊ねた。
「え?」ふと我に返り「そうですね」と一言だけ返す。
「私、先日越して来たばかりの者でして、まだ野窓町の事よく判らなくて」
「あぁ、そう、ですか」
またも一言のみ。
男は女と一緒に居るこの時間が好きでもあり、同時に厭でも有った。
相手と話す度に、自分の口下手と臭いと言う致命的な欠点が、厭でも露呈してしまうのだ。これでは不快な印象ばかりを与えてしまい。また嫌われてしまう。そんな自分が厭で厭で仕方なかったのだ。
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