夢幻の誘惑

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 カオルは自覚する。 「一人じゃ全然何もできないんだなー」 「それが普通なのですよ」  下手な万能感、全能感にでも浸っていたかのようで。  カオルはしみじみと呟き、勇者と言えど一人の人間だと実感してしまう。 「なんか凄いダサくない? あんだけカッコイイ事言っておいてさ?」 「ふふっそうですね。なら宣誓通りになるように頑張ればいいじゃありませんか、まだまだ新人勇者ですよ」 「なんか魔王に言われると説得力があるね」  二人はおかしくて笑う。  小さな小さな裏話、従者に愚痴を零す勇者の、人としての苦悩。 「ん、ありがと。凄い楽になった」 「私もお酒が欲しいです主様、お願いできます?」  ロザリンドが酒瓶を取ってカオルに唇に持っていく。  それを察してカオルは自分の口に一端含んで、下から見上げるロザリンドの唇に持っていく。  零さないようにお互いの唇を押し付けカオルはゆっくり流し込んでいく。  それでも零れる酒はロザリンドの口の端を通り顎を伝わり胸に。  ロザリンドは嬉しそうに飲み干すと舌を絡めて余韻を楽しむ。  お酒と一緒に流れ込んで来た気持ちが嬉しくて。  温かい、隣に寄り添うのを許可してくれたようなカオルの気持ちが契約紋を通じて来た。  今夜勝ち取った信頼を胸にロザリンドは主人を見上げる。  貴方が眠りにつくその日まで、主従関係を結び支えていくことを心の底から誓う。 「楽しませてくださいね」 「え? 何戦目?」  狡猾な悪魔はするりと滑り込むと勇者を包む。  悪魔の微笑みは男を篭絡するのには向いていて。 「寝不足なんだけど?」 「私の方が昂ぶりました。主様が私を認められたのが嬉しくて」  甘えるようにキスをしてくるロザリンドにカオルは苦笑しつつ満更でもない顔をして悪魔の誘惑に乗る。  その日は連日の疲れと頑張りすぎた結果、カオルは疲労感からずっと寝込むことになった。  
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