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けれどそれは家族の抱擁という風ではなかった。肌がざわつくような感じから察するに、なにか霊力を使っているのだろう。
「ーー見つけた。これはもういらないわよね」
お母さんがそう言うと、僕の頭の後ろでなにかが音を立てた。顔を見上げると、さっきまでと同じ笑顔。いったい、なにをしたんだろうか。
「さぁ、もう時間ね」
僕の疑問に答える気はないようだけど、名残惜しんでくれてはいるようで言葉とは裏腹に僕を抱く腕の力が強くなる。僕もそれに応えるように抱きしめて、改めて決意を口にした。
「紹介したい人が、たくさんいるんだ。だから、必ずお姉ちゃんを止めてくる」
「ええ、待っているわ」
僕は、何もなくしていなかった。居なくなってしまったお母さんにも、こうして会えた。
だから、僕は諦められない。散葉を、取り返さなくては。
僕から離れた母さんはじっと僕の目を見て言う。
「あの子は強いわよ」
「うん。わかってる」
「気を付けるのよ」
「ありがとう、お母さん。ーー行ってきます」
「行ってらっしゃい、零也」
ずっと欲しかったたくさんの言葉をもらって、僕はお母さんに背を向けた。
このドアの先、階段を上がればお姉ちゃんが待っている。
決意を固めて、ドアの横に背を預たまま腕を組んで待っていた従者に手を伸ばす。
「待たせたね、香澄」
「もういいんですか」
「うん、今はね」
「そうですか。では、行きましょう」
香澄の手をとり、変化した彼女を腰に戻す。最後のドアを開け、階段の先に視線を向け、僕は走りだした。
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