27245人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
――彼が、他の女の子を選んだ。
また、だ。
前の彼の時もそうだった。
冷たい壁にもたれて目を閉じた。
心は痛みでフリーズしているのに、涙だけが忙しく溢れてくる。
流れたマスカラで頬はざらざらだ。
「帰れないや……こんな顔で」
笑おうとしても、時々塊みたいに込み上げる嗚咽で喉がひきつれた。
ノー残デーの金曜の夜、
静まり返ったオフィスの廊下。
休憩室から漏れる明かりと非常灯以外、照明を落とした廊下は真っ暗だ。
数時間前。
私は彼の裏切りを知った。
私の目の前で、
彼は同僚の女の子と寄り添い、
マンションへと入っていった。
週末の食材なのか、
スーパーの袋を抱えて。
絡め合った二人の指が、
閉じた瞼の裏から離れない。
苦しくて目を開ける。
見上げた目に映るのは、明かりの消えた灰色の蛍光灯が並ぶ、無機質な天井。
……私、ひとりだ。
今も、明日も、きっとその次も。
じわじわと、
孤独が私を締め付ける。
最初のコメントを投稿しよう!